2024年4月25日(木)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2017年9月21日

アルパイオ被告に対する恩赦のタイミング

 トランプ大統領の白人至上主義擁護はこれに留まりません。同大統領は、西部アリゾナ州マリコパ郡の元保安官で人種差別者と見られているジョー・アルパイオ被告に恩赦を与えました。アルパイオ被告は、法廷侮蔑罪で有罪になりました。同被告は、ヒスパニック系(中南米系)を外見で合法か違法かを判断して拘束したのです。しかも、彼らにピンク色の下着をはかせ、白黒縞模様の囚人服を着せて屋外刑務所に入れたのです。屋外刑務所はユダヤ人収容所を、囚人を鎖でつないだ屋外作業は奴隷のイメージを、米国民に連想させました。

 恩赦は論争を呼ぶので、一般に大統領は任期の最後に出します。例えば、ジョージ・H ・W・ブッシュ元大統領は、偽証罪で起訴されたレーガン政権のキャスパー・ワインバーガー元国防長官に、1992年恩赦を与えています。ビル・クリントン元大統領は、脱税などの罪で起訴される直前に国外逃亡をした実業家マーク・リッチ氏に2001年恩赦を出しました。いずれのケースも政権末期です。にもかかわらず、トランプ大統領は就任後わずか7カ月で恩赦を与えました。

 ただ、トランプ大統領は恩赦のタイミングについて綿密な計算をしています。ハリケーン「ハービー」が南部テキサス州に接近するまでアルパイオ被告に対する恩赦の発表を控えたのです。ホワイトハウスは否定していますが、ニュースがハリケーンの話題に集中し、同被告のそれが大きく取り上げられないタイミングを狙って発表したとみてよいでしょう。

 ミネソタ州セントポールでのヒアリング調査で、トランプ支持者の白人男性(75)にアルパイオ被告に対する恩赦について意見を求めると、彼は次のように語りました。

 「アルパイオは、法を施行したのです。(米国)社会における秩序を回復させようとしたのです」

 この白人男性は、アルパイオ被告を高く評価していました。同様に、トランプ大統領に熱狂的な白人女性(75)も、同被告に非常に肯定的なイメージを持っており、次のように強調しました。

 「アルパイオは、まったく正しいです」

 反移民・反難民のトランプ支持者にとって、アルパイオ被告は犯罪が多発する米国社会に法と秩序を回復させようとした英雄に映っていました。さらに、同被告は白人文化の「破壊者」であるヒスパニック系から白人文化を守ろうとした「擁護者」でした。

 9月15日、アナンデールにあるコノリー議員の地元の選対を訪問すると、同議員はこの恩赦について不快な表情を浮かべながら、一言次のように語りました。

 「トランプは、白人至上主義者を満足させるために恩赦を出したのです」

 コノリー議員にとって、トランプ大統領の衝突事件に関する発言及びアルパイオ被告に対する恩赦は、到底容認できるものではありませんでした。

コノリーの法案

 コノリー議員の法案は、トランプ大統領が「KKK(クー・クラックス・クラン)、白人のナショナリスト、白人至上主義者及びネオナチによって引き起こされたシャーロッツビルでの恥ずべき憎悪に満ちた暴動を明白に非難する」ことを求めています。前述しましたが、法案は上下両院で通過しました。現在、この法案はホワイトハウスのトランプ大統領の机の上にあり、同大統領が署名するか否かに注目が集まっています。

 「トランプは署名をしたくないのですが、せざるを得ないでしょう」

 コノリー議員は、署名の可能性についてこう語っていました。

 仮に署名を拒否すれば、トランプ大統領の言動が再度争点になり、米国社会における統一は遠のき、人種や民族間における「分断」「溝」及び「相違」が広がるのは間違いありません。米国民は、同大統領は社会の「統一者」ではなく「分断者」であるという認識を一層強く持つでしょう。しかも、米国の伝統的な文化的価値観を捨て白人至上主義者を擁護した大統領として、トランプ大統領を記憶する可能性が高くなることも確かです。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る