それと同じように、3D映像表現も、これまでの2D映画と同じテクニックを使うのでは、成立しないものがある。逆に、単なる立体感以上に、3Dだからこそ引き出せるリアリティもありそうだ。そこには、クリエイティビティを発揮する余地が大いにある。
たとえば、室内の場面などでは、役者にだけピントがあっていて、他はあえて強めにぼかすことで観客の視線をコントロールしたり、3D酔いを防いでいるようだ。
また、あの広大な奥行き感のある映像は、メガネを取ってみると、像には視差を作るブレはなくて、普通の2D映像と変わらない。しかし、あらかじめ近くに立体感を感じさせる演出をした後で、そういう映像を見せる事で、2D映画では演出できなかったリアリティを実現させている。
もちろん、まだ完璧とはいえない部分もあって、(たとえばカメラを振るときは、もっと画像の更新頻度を上げた方が良いとか)、少なくとも今までにない物を見たと思わせるだけの力を持った作品だ。
続々と公開される3D映画
『アバター』以降に、日本で上映された3D作品で、特徴的なものについても触れておこう。
『コララインとボタンの魔女3D』は、人形をコマ撮りで撮影したストップモーション・アニメで、始めから3D映画として撮影された作品だ。
ストップモーション・アニメとしては飛び抜けて完成度が高く、なめらかに動きすぎるくらいで、そのためにCGアニメのように見えてしまうという本末転倒はあるものの、随所にはっとさせられる表現がある。
『アリス・イン・ワンダーランド』は、ルイス・キャロルの世界観を期待すると全く違っていてびっくりするが、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』のキャラクターを借用して作られた、ヒーロー(ヒロイン)もののファンタジーとしてみると、なかなか楽しめると思う。
この作品は、2Dで撮影された実写の作品を、ポストプロダクション(2D映像を3Dに変換する技法)で3D化したものだ。ポストプロダクションは丁寧に行われていて、3D酔いするような不快感もほとんどない。ただ、ポストプロダクションによる3D化の、まだこなれていない一面も感じさせる作品ではあった。
たとえば2Dの映画では、ロングからアップに瞬時にカットが切りかわる表現は普通に使われる。しかし、これを3Dでやると、目の前に瞬時に巨大な人が現れたように感じられて、目があわあわしてしまった。
また、キャラクターが止まり、かつカメラの動きも止まるシーンでは、ぺらぺらの平面写真が前後に配置されたような感じにみえてしまう。これは、狙って使えば効果的な表現にもなるとは思うが、この作品では残念ながらそうではないようだ。
『ヒックとドラゴン』は、今年開催されたヴェネツィア国際映画祭で、15本の3D映画部門ノミネート作品の中から『アバター』とともにグランプリに選ばれた作品だ。
『アバター』は映画というよりも、3Dアトラクションのような感じもあって、ストーリーについては辛口の評価を下す人は多い。