極限への挑戦で追求し続けるのは人間のはてしない可能性だ。
群馬県みなかみ町にある谷川岳ロープウェイのベースプラザ。ここから眼前に谷川岳の岸壁を望む一ノ倉沢まで、一般車両通行止めの山道を8人乗りのガイド付き電気自動車が走っている。徐々に冷たくなる空気を感じながらガイドの説明を聞いていた乗客が突如叫んだ。「自転車で登ってくる人がいる!」
その声に「あの方は、みなかみを拠点にして世界のレースに出ているアドベンチャーレースの第一人者です。トレーニングしているんだと思います」とガイドが説明する。
マウンテンバイクで電気自動車を力強く追い抜いていったのは田中正人。1994年にアドベンチャーレースの元祖といわれる「レイド・ゴロワーズ」に初出場し日本チーム初の完走を果たしてから、アドベンチャーレースに人生のすべてを賭けてきた。
そもそもアドベンチャーレースとは何なのか? 直訳すると冒険レース。冒険とレースが合体したら危なくないか……と思いつつ、2016年に南米パタゴニアで行われた世界大会を追ったDVDを見て絶句してしまった。過酷なレースといえばトライアスロンを連想していたのだが、その数倍どころか数十倍ではないかと思われる過酷さだったのだ。
アドベンチャーレースとは──まず舞台は山や川やジャングルや湖や砂漠や氷河などの大自然。前人未踏の難所が含まれることもある。直前に渡される地図を頼りに、徒歩、自転車、カヤック、クライミング、乗馬など複数のアウトドア競技をこなしながら、途中設けられたチェックポイントを通過してゴールを目指す。500キロから700キロ前後の長距離のレースはスタートしたらノンストップで、夜間もほぼ不休状態で続けられる。チーム構成はレースにより異なるが、パタゴニア大会では男女混成の4人が条件。
「冒険だったら、天候が悪かったら断念して再トライできる。でもレースだから、他のチームが行けば行くしかない。多種目で男女混成だから、いろいろと凸凹が生じやすい。チームをより深刻な極限状態に追い込んで、さまざまな困難やトラブルを発生させ、チームはそれを体力と知力を振り絞ってひとつひとつ解決しながら前に進んでいくというのが、アドベンチャーレースの仕組みなんです」