2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2017年11月27日

「ノーベル賞受賞者は生まれなくなる」

 こうした運営費交付金の減少は、日本の科学技術に対し重大な悪影響をおよぼす。

 まず科研費に依存した研究体制は〝国がどの分野を重視しているか〟という政策的な動向によって、研究内容が左右されてしまう。たとえば「理学系での最近の科研費は『情報分野』に重点が置かれている」(東大の若手研究者)という。重視すべき分野に集中投資されることは研究費の選択と集中を促すという面でメリットもあるが、多様性が失われたり、短期的に成果が見えにくい基礎研究分野が軽視されたりする懸念がある。

(出所)科学技術・学術政策研究所資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

 また、研究成果である論文数も減少する。自然科学分野の15年の論文数は、米、英、独、仏、中、韓の主要国が04年比でその総数を大きく伸ばしている一方で、日本のみ減っている。イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education」の「THE世界大学ランキング」04年版では東大は12位、京大は29位、東工大、大阪大学、東北大学、名古屋大学が200位以内にランクインしていたが、最新の18年版では東大は46位、京大は74位に後退し、他の大学は200位以内から転落している。

(注)2000年以降にノーベル賞を受賞した研究者に限定 (出所)政策研究大学院大学専門職の原泰史氏の 研究データなどを基にウェッジ作成  写真を拡大

 日本は00年以降、自然科学分野で15人のノーベル賞受賞者を輩出し、科学技術大国とされてきた。しかしそれらの受賞の多くは研究者が20代後半から40代前半の若手のころにに行われた研究が後年になって評価されたものだ。次世代のノーベル賞を生む土壌は既に崩壊し始めている。梶田教授は「このままでは日本からノーベル賞受賞者は生まれなくなる」と危機感を隠さない。

 ではどうするべきか。安井名誉教授は「すぐに成果が出る研究は民間がやる。先進国として、あくまで科学技術立国を目指すのならば、運営費交付金を増やすべきだ」と語る。梶田教授や16年にノーベル医学・生理学賞を受賞した東工大教授の大隅良典氏など、運営費交付金増額を求める声は大きい。

 しかし財政難の時代に運営費交付金を増額することは現実的に考えて難しい。川口教授は現状のジレンマをこう分析する。

 「運営費交付金を戻すのはセカンドベスト(次善の策)だ。いったん戻すべきだという危機意識は正しいが、財政難という時代の中で誰にもファーストベスト(最善の策)がわからない。そうこうしているうちにこのままでは大学が崩壊するというところまで来てしまった」

 国の財源なき中で、有望な若手研究者にいかに資金を回し、科学技術立国の基盤である国立大学を再興させればいいのか。国立大学への処方箋を検証した。(以下、特集ラインナップ)

現在発売中のWedge12月号では、以下の特集を組んでいます。
■国立大学の成れの果て ノーベル賞がとれなくなる
文、インタビュー・梶田隆章、本間政雄、松浦良充、苅谷剛彦、Wedge編集部(木寅雄斗、櫻井 俊)
CLASS 1 土台から崩れゆく日本の科学 疲弊する若手研究者たち
INTERVIEW このまま放置すればノーベル賞はとれない
CLASS 2 教育と研究の質を落とさず国立大学のダウンサイジングを進めよ
CLASS 3 国立大学の特色を出すため財政基盤の「独立」を目指せ
CLASS 4 欧米の「翻訳学問」から抜け出し日本独自の学問で信頼を勝ち取れ

  
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◆Wedge2017年12月号より


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