不安定になる若手のポスト
一方で、研究者への研究資金として重視されるようになったのが、科学研究費助成事業(以下、科研費)を代表とする競争的資金だ。科研費は自動的に下りてくる運営費交付金とは違い、文科省に研究テーマを申請し、同じ分野の研究者による審査を経て交付の可否が決定する。17年度で2284億円の予算がつき、04年度から454億増加している。
だがこの競争的資金への偏重が問題であると、日本より良い研究環境を求めて香港科学技術大学に移籍した川口康平助教授は、次の通り指摘する。
「科研費は将来にわたって確保できるかどうか予測ができない。使途や期間も限られており、研究者やスタッフを長期間雇用するための人件費に使えない」
加えて科研費では「真水」である運営費交付金とは違い、申請した研究テーマに使う実験器具などにしか使えないのだ。
また運営費交付金の減少は、研究資金面以外でも若手研究者たちに死活問題をもたらしている。ポストの不安定化だ。
東京工業大学の西田亮介准教授は「労働法制上、既存のポストは手をつけにくいので、新規雇用の際に人件費のコントロールが容易な任期つき教員への置き換えが進められている」と指摘する。
文科省の調査によれば、07年度に39%だった40歳以下の任期つき教員の割合は、17年度には64%に増加している。「3年の期限のある競争的資金で雇われた研究者は、1年目はその分野を学び、2年目に研究して論文を書き、3年目にはその成果をもって次のポストを探すことになるだろう。腰を据えて研究する時間は短い」(梶田教授)
加えて目減りした運営費交付金の影響で、若手研究者は研究時間も奪われている。スタッフを雇ったり外注化したりできず、研究室の雑務も若手研究者が行わざるを得ないためだ。高山助教も、自身で経理や総務的な仕事までこなしているという。科研費申請の書類作成も2週間近く要する。もちろん、大学教員として研究室の学生への指導も行っている。
文科省の科学技術・学術政策研究所の調査によると、国立大学の教員の勤務時間中、研究に充てられている時間は02年の50・7%から13年には42・5%に減少している。若手はさらにひどいようで、高山助教は「体感で1割程度しか研究に充てられない」という。また工学系のある東大准教授は「准教授以上はまず科研費などの研究費をとってくることが仕事になる。そのため研究は実質的にできていない。若手が厳しいのはもちろん、教授でも時間のない実態は変わらない」と語る。