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Wedge REPORT

2010年11月8日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で修士号取得、博士課程後期を単位取得満期退学。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年4月より現職。慶應義塾大学名誉教授。2015年4月より三菱ふそうトラック・バス株式会社監査役。

渡邊教授:日豪EPA交渉入りに先立って行われた日豪共同研究会の報告書によれば、自由化すると日本の畜産生産量が上がるという試算が出ています。農水省自身も、牛肉に対する需要が増し、マーケット全体が拡大するのではないか、ということを言っていました。

 BSEの一件以降、牛肉マーケットは豚肉に押され気味です。ですから、牛肉全体の消費を上げることを目標とし、かつマーケットの中で差別化を図っていくのが自然だと思います。例えば所得に応じて、アッパーマーケット向けには和牛、一方で学校給食や牛丼チェーン店などには外国産の良質で低価格なものを、といったようなことです。

 和牛とオーストラリア産の肉では、食味・食感がかなり違いますので、価格の問題も然ることながら、マーケットの中で住み分けが可能ですし、すでに住み分けができていると思われます。そういった観点からも、38.5%という高関税で日本の畜産業を守る必要があるのかどうか、疑問が残ります。

――日本・メキシコEPAでは、豚肉が議論の焦点となったと思われますが、どうだったのでしょうか。

渡邊教授:豚肉には、「差額関税制度」といって、基準価格を下回るものに関して従量税を課す制度が適用されています。ばら肉のような安価な肉には、従量税がかかり、ロースやヒレのような高価な肉には、4.3%という従価税がかかるようになっています。つまり、従量税がかかる安い肉の方が関税の影響が大きくなり、入ってこない。日本は、メキシコに対して高級部位への関税を4.3%から2.2%まで引き下げ、初年度3.8万トン(5年間で8万トンまで認める)という輸入枠を与えました。その代わりに、「差額関税制度」には手をつけないという取引きが成立したわけです。

 ハムなどの加工品がいつまでたっても高いままなのは、この「差額関税制度」が原因です。日本の養豚業者たちにとって、この制度があれば自由化の打撃は限りなく小さい。しかし、TPPに入れば、アメリカやカナダは当然輸入枠を狙ってきますし、例外も許さないということでこの制度も改変を迫られるでしょう。やはり日本の畜産業にも戦略が求められます。

 乳製品に関しては、コメ同様、中国マーケットを意識するのが良いと思います。中国では最近食事中にヨーグルトドリンクを飲む人をよく見かけます。このように、乳製品の需要は増えつつあり、そこにチャンスを見出せるはずです。オーストラリアやニュージーランドには、外国でのマーケティングノウハウをもった、大規模な乳業企業がいくつかありますので、例えばそういった企業と手を組んで、中国に北海道の乳製品を売るということも、TPPの中で可能になってきます。

 日本・メキシコ間のEPA交渉の際に、両国の養豚業者の話し合いの場を設けたのですが、メキシコの業者は、MBAや農業経済学での博士号をもっている人たちばかりで、そういった豊富な知識をもった彼らが、「日本の高い環境技術を養豚業に生かしたい。一緒に手を組んでやっていかないか」と言うわけです。自国の養豚業を高関税で守ることだけしか考えていない日本とは発想がまったく違いました。

――日本では農産品への高関税を撤廃する代わりに、農家や畜産業者に対して政府は直接補償をすべきという声もあります。

渡邊教授:もちろんその理屈は理解できます。しかし、ウルグアイラウンド(UR)によってコメの輸入が部分開放された際、6兆円という大きな額が対策費として支出されましたが、それによって日本の農業が強くなったかというと、今日まったくそうはなっていません。広域農道の建築など、公共事業に費やしてしまい、農業の集約化・大規模化には繋がらなかった。ですから、補償金を出せばよいわけではない。まずは1戸あたりの耕作面積を広げ、大規模化・効率化していくことが、日本の農業を強くするには必要な戦略です。

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