2022年11月29日(火)

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2010年11月8日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で博士後期課程を単位取得満期退学。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年より現職。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。近著に『詳解 経済連携協定』(日本経済評論社、監修)。

――自由化によって、日本の農業が強くなったという例はありますか?

渡邊教授:1979~80年頃、柑橘類に関して日米で貿易摩擦がありました。アメリカはフロリダやカリフォルニアからオレンジを輸出したい。日本は国内のみかん農家を保護したい。しかし、この騒動をきっかけに、ある静岡のみかん農家が、みかんからキウイへいち早く生産を切り替えました。これが外国でも「おいしい。甘い」と好評を得ました。

 他には、1987年頃に当時のECが、日本の焼酎に対する酒税がウィスキー類やスピリッツなど他の蒸留酒と比較して大幅に低いのは不当であるとして、関税貿易一般協定(GATT)の紛争解決手続きに申立を行いました。この事案について、紛争処理の小委員会(パネル)は、日本の課税措置は、GATT3条の「内国民待遇義務」に違反するという判断を下しました。日本はこの結果を受けて焼酎を増税しましたが、それから現在に至るまで、焼酎が衰退の道を辿ったか…というと、ご存知の通りそんなことはありません。

 昔は、焼酎は安価でブルーカラーの飲み物でした。しかし今では、カクテルに使われるなど若者たちに人気ですし、なかなか手に入らないプレミアムがついたものもあるくらいです。欧米から訴えられ、敗北し、窮地に立たされた焼酎業界が、知恵をしぼって今日までブランド力強化に努めてきたわけです。「負けるが勝ち」という言い方が正しいかは分かりませんが、競争にさらされてこそ強くなれるのだと思います。

――他にも、外国産の輸入が増えることに対する不安や、日本の食料自給率低下を懸念する声もあります。

渡邊教授:「外国の産品がたくさん輸入されると、日本の農業は壊滅してしまう」という「敗北主義」同様、「食の安全神話」と「自給率の呪縛」についても、日本は早く捨て去るべきです。

 まず「食の安全神話」について。日本の消費者は「国産=安全、外国産=危険」という安直な印象を持ちがちですが、実際にそうとは限りません。例えば、メキシコの養豚業は、人里離れた砂漠で行われているのですが、日本では土地がないため狭い場所で豚を育てています。豚は人間から病気をもらいやすく、そのため日本の豚の餌には抗生物質を混ぜているのですが、メキシコではそのようなことはありません。他方、輸入農産品についてはポストハーベスト農薬が使用されているという指摘もあり、国産と外国産についてどちらが安全だ、危険だ、と簡単に言い切ることはできないと思うのです。

 それから自給率については、「カロリーベース」計算であることがポイントです。つまり、自給率の分母には、人間の口に入る農産品のカロリーだけでなく、牛や豚などの飼料用穀物のカロリーも全て入っています。牛肉1キロのためにその7倍、豚肉1キロのためにその4倍の飼料が必要と言われており、そのほぼ全量を輸入しています。牛肉の38.5%という高関税、豚肉の差額関税制度での過剰な保護を緩めれば、輸入が増え、国内での生産が減る=飼料用の穀物の輸入が減少するので、自給率は上昇します。肉自体の輸入が増えても、国内で畜産業を行う場合に輸入する飼料の量を考慮すると、自給率は上がるのです。畜産保護の結果が逆に自給率を下げているというカラクリを、消費者にはぜひ知っていただきたい。

 確かに、自給率は高いに越したことはありません。しかし、真の意味での食の安全保障とは、「供給先の多角化」であり、日本へ特恵的・優先的に食糧を輸出してくれる国をいかにたくさん確保しておくか、ということです。

――では、それと同時に日本の農業の競争力を高めるためには、TPPをきっかけとして具体的に何をしていけば良いのでしょうか。

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