9月下旬、中国・武漢の造船所に現れた1隻の潜水艦が、アジアや米欧の安全保障専門家たちに波紋を広げた。中国の10大国有軍需企業の一つ、「中国船舶重工集団公司」が建造したとみられる新しい潜水艦だ。
中国海軍の公式発表はないが、香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは、「中国がついに、ステルス性を高めた新しいクラスの潜水艦建造に成功した模様」とする専門家の分析を載せた。
「潜水艦」がカギを握る東アジアの海
太平洋の外洋へ積極的な進出を始めた中国。南シナ海ではすでに周辺諸国との摩擦が表面化し、9月7日に起きた沖縄・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件に象徴されるように、緊張は東シナ海にも広がりつつある。新型潜水艦の登場は、東アジアでの軍事的緊張がまた一段高まる兆候ともいえそうだ。
尖閣諸島沖には11月20日、中国のヘリ搭載型の最新鋭の漁業監視船「漁政310」などが姿を現し、日本領海の外縁に沿って2日間航行した。菅首相とオバマ米大統領が横浜で会談し、中国の海洋進出をけん制するメッセージを打ち出したわずか1週間後のことで、専門家は「中国が本気でこの海域の実効支配を狙っていることの証左だ」と指摘する。
地域が不安定化する中、世界の視線は今、日本に注がれている。政府が年内に策定する新たな「防衛計画の大綱(防衛大綱)」の行方だ。大綱は、今後5~10年間の日本の防衛力整備を示すもので、今回の策定では、対中戦略の一環として、潜水艦の保有数を増やせるかどうかが焦点の一つとなっている。1976年の最初の大綱策定以来、日本は潜水艦保有を一貫して16隻としてきたが、現有艦の延命によって「22隻体制」に増強することが検討されている。
「中国の潜水艦は2006年に相当な静寂性に達したことを示したが、今回それを上回ったとすれば大変な脅威だ。一方で、中国は対潜哨戒機を事実上持たないため、日本が潜水艦部隊を増強すれば、地域の軍事バランスに大きな影響を与える」
海洋安保が専門の小谷哲男・岡崎研究所特別研究員はこう指摘する。
「防衛大綱」は、「日本の安全保障の基本方針、防衛力の意義や役割、自衛隊の具体的な体制、主要装備の整備目標水準など、今後の防衛力の基本的指針を示すもの」(防衛省)だ。政府は、大綱をもとに、主要装備の具体的な数や、今後5年間の経費の総額を示す「中期防衛力整備計画(中期防)」を策定する。
最初の大綱策定は76年。その後、冷戦終結や自衛隊の役割の拡大などに伴い、95年と04年に改定され、今回の策定は戦後4回目となる。04年にできた現大綱には「5年後の見直し」規定があった。だが、09年9月に政権交代した民主党・鳩山由紀夫政権は「拙速は好ましくない」(北澤俊美防衛相)として、新大綱の策定を今年末に先送りした。
大綱は通常2部構成で、「本文」で防衛力整備の基本的考え方を示す。これをもとにした「別表」が、防衛省・自衛隊のいわゆる「買い物リスト」だ。陸上自衛隊は部隊の人数、海自は艦船の隻数、空自は航空機の機数などが中心項目となる。財務省は、予算抑制のため、「買い物」をできるだけ安くしようとする。