ある自民党幹部は「我々の時代は、懇談会発足と同時並行で党の国防部会が勉強会を開き、約半年間かけて議論した。民主党はそうした地道な作業をしていない」と冷ややかに指摘する。
民主党は11月半ばをめどに、党としての考え方をまとめて政府側に示す計画を立てていたが、わずか1カ月程度でのとりまとめには“拙速”どころか“泥縄”の気配が漂う。党内では、護憲派の議員などが武器輸出三原則の緩和などを盛り込んだ調査会の素案に反発し、意見集約は難航。結局、11月末のとりまとめも困難な様相となってきた。
防衛省内では「議論が生煮えになり、結局『陸海空で一律10%予算削減』といった乱暴な結論にならなければいいが」と不安の声が出ている。
こうした事態は、今の首相官邸が司令塔不在であることも影響している。政府内では「大綱の後、すぐに中期防を作るためには、遅くとも12月冒頭に大綱を決める必要があるが、情勢は厳しい。夏前から官邸が音頭を取るべきだった」(財務省幹部)といった指摘が各所から上がっている。
大綱の最終的な取りまとめは首相官邸が行う。利害がぶつかる各省、そして民主党との間を調整し、事実上の決定権限を握るのは、仙谷由人官房長官だろう。仙谷氏には目下、国会会期末への対応や2011年度予算編成など、政権運営にかかわる枢要な判断の責任が集中している。日本の安全保障に関する総合的な判断まで仙谷氏1人にゆだねていいのか、という疑問が残る。
すでに民主党政権は、場当たり対応の連鎖だった普天間問題の経験で、基軸のない安全保障政策は国益を傷つける、という教訓を得たはずだ。11月23日には、北朝鮮が韓国を砲撃し、朝鮮半島の緊張も一段と高まっている。菅政権は今回こそは、世界に注目されているという大局観をもって防衛大綱を策定し、国民を安心させる指針を示してほしい。
この記事は、「WEDGE」2010年12月号(11月20日発売)に掲載された「防衛大綱見直し 対中シフトは必須 政権は大局観を」に、11月26日時点までの情報を付加したものです。