大綱とりまとめには、折々の国際情勢の分析をもとに、安保の基本戦略から、現場レベルの話まで、幅広い専門知識が求められる。このため、自民党政権下では、首相が外部の有識者会議に諮った報告書が事実上、大綱の下敷きとなってきた。
民主党政権でも、鳩山内閣が作った首相の諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(安保懇)」(座長=佐藤茂雄・京阪電気鉄道最高経営責任者)が約半年間かけて今年8月末に報告書をまとめ、菅直人首相に提出した。
報告書の論点は主に2つある。
1つは、全国に最小限の部隊を広く均衡に配置すべきだとしてきた従来の「基盤的防衛力構想」を放棄し、「多様な事態への対処能力」を集中的に構築する新たな部隊配備。具体的には、中国への対応を念頭に、北海道の部隊配備を薄くし、鹿児島・奄美大島から沖縄の南西諸島にかかる地域への部隊配備や装備を厚くする「南西重視」が想定されている。
2つ目は、海外への武器輸出を禁じた武器輸出三原則の緩和だ。装備品の国際共同開発・生産への参加によって、開発コストの削減や他国との安全保障協力の強化につながる。
安保懇が提起する選択と集中への転換
だが、財政難の折、今後の防衛費は「増額の余地はない」(財務省)のが現実だ。予算配分は「戦略性を持った『選択と集中』」(長島昭久前防衛政務官) の徹底がポイントとなる。
まず、中国対策。中国軍は、有事の際に米海軍をできるだけ遠くの海域で食い止める「接近拒否戦略」をとり、空母建造などの装備増強を急いでいる。一方、空では、第5世代の戦闘機の開発を続けており、日本もステルス性の高い戦闘機が必要となる。防衛省幹部によると、日本の対応強化の柱は、(1)潜水艦部隊の増強(2)次期主力戦闘機(FX)の選定(3)ミサイル防衛機能を持つイージス艦の増強の3本だという。
特に、海上では、日米は「対潜哨戒と掃海は日本の仕事」(自衛隊幹部)という認識を共有している。潜水艦部隊の強化は日米防衛協力の観点からも欠かせない。
離島防衛の強化も新たな課題だ。現在は、尖閣諸島など東シナ海の海上監視は海自のP3C哨戒機が周辺を1日に最低1回飛行しているが、最新鋭の〝助っ人″が海外で活躍している。米空軍の無人偵察機「グローバルホーク(GH)」だ。