2024年12月5日(木)

サイバー空間の権力論

2017年12月26日

言論統制技術を輸出したい中国

 中国の言論統制は有名だが、中国は言論統制技術の輸出も念頭にある。中国が主催する「世界インターネット大会」という国際会議は4回目を迎え、2017年は烏鎮(うちん)で行われた。欧米先進諸国からの参加者は少なく、それ故に日本の報道も多くなかったが、アップルのティム・クックCEOやグーグルのサンダー・ピチャイCEOが参加し、スピーチにおいて中国政府を批判しなかったことから、逆に欧米から批判されていることが話題となった

 ここで中国は、自国を中心とした経済圏を構築するための「一帯一路・デジタル経済国際協力イニシアティブ」と題した提言を発表した。それは中国、ラオス、サウジアラビア、セルビア、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦が共同で、デジタル取引の促進といった経済政策と同時に、ネット空間の「秩序」を高める方策を採用するものだ。経済協力ではあるが、それは中国による経済支援の側面もあり、その見返りとして各国は中国を支援し、同時にネット上の言論統制などを正当化することになりかねない(欧米各国から言論統制を批判される中国が、インターネット主権を唱えている問題については、本連載でも扱った

 時に中国は2030年までにアメリカを抜いて人工知能技術で世界をリードするという目標を掲げ、すでに国内企業に積極的な投資を行っている。ここで注目されるのは顔認証を技術である。顔認証というとアップルのiPhoneⅩが有名だが、中国は現在、顔認証だけで決済を可能にするサービスを国内で実験している。ビジネスとして使われる一方、顔認証は監視カメラから個人を特定するためにも用いられ、この分野の技術を先の経済圏に積極的に輸出することが目的のひとつでもある。

 アメリカのIT企業を敵視し、度々アメリカ企業の進出を拒否してきた中国は、逆に中国製品を世界中に広めることによりIT分野で勝利を収めようとしている。当然のことながらビジネスだけでなく、そこには技術の政治的利用も考えられている。もちろん欧米の技術が民主主義にとって害をなす製品をつくってきたのも事実であるが、中国とITの関係が国内を越えて国外にも目が向けられている今、ITと国際政治の関係がますます注目されることになる。国家統制としてのIT技術やインターネット管理という側面は、これまた閉じこもるインターネットを加速化させている。

アメリカとネットワーク中立性

 問題は中国だけではない。アメリカでは2017年12月、FCC(米連邦通信委員会)が「ネット中立性」規則の破棄を承認した。ネット中立性はオバマ元大統領の選挙公約であり、2015年に当時のオバマ政権が導入を決定したものだ。ネット中立性はインターネットを電気やガス、電話のような「公共インフラ」と同様のものと捉え、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)に流通するコンテンツやデータに優劣をつけてはならないとする規則だ。

 電気やガスは、どのような立場の人も平等に利用できねばならない。誰かが料金を余計に払って使う分、多くの金額を払えないユーザーの家の電気が止まるようなことがあってはならない。ネット中立性はこれをインターネットにも適応するものだが、この規則については長い間議論がなされてきた。中立性規則撤廃派は、これによりインフラ企業のイノベーションが進むと述べる一方、中立性支持派はむしろ規則の破棄こそがイノベーションを害すると考える。この規則が破棄されれば、高速道路のように料金を払った人は通常よりも高速のインターネット利用が可能になる一方、ISPは競合他社のサービスを意図的に遅くすることも考えられる。

 例えばネットフリックスなどの動画配信サービス企業Aと提携しているISPに加入すると、競合他社Bのサービスを意図的にISPが遅くすればどうなるか。日本と異なりアメリカでは地域にISPが少ないこともあり、実質的にISPやインフラ企業の意向によってインターネットが自由に使えなくなってしまう、という事態が生じてしまうわけだ。

 アップルやグーグルといった大手IT企業は今回のネット中立性規則の破棄に反対するほか、インターネットに関わる大物たちからも反対の声が挙げられている。また各州で訴訟が行う意向があるとの報道もあることから、この規則の破棄がすぐに実現するものではない。とはいえ、アメリカにおいてもインターネットの公平性をめぐる議論は曲がり角を迎えているようだ。ネットは様々な領域において、経済的にも政治的にも内向きになっている。


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