学校側も同じ気持ちだ。大友副校長は、取材中「学生が生徒に『寄り添う』」という言葉を繰り返し使った。「もちろん、生徒の学力向上は重要であり、目的の1つだが、勉強を教えることだけがすべてなら、他地区同様、塾と提携するなどの方法をとればよい。学生が生徒に『寄り添う』ことで、人間関係を築いていき、そこで生まれるコミュニケーションは、学生にとっても生徒にとっても大いに意味があるもので、そこに活動の意義を感じる」と続けた。また、野口校長からも、「大切なのは目的意識。今の学校は、どこもいわゆる『人・モノ・金』が不足しているが、それを何に使いたいかという明確な意思をもっていることが大切。この活動は今西新宿中学校にとって必要なものだ」と、学校のトップとしてこの活動を続けていくという強い思いを感じた。
「国境なき学び舎」が子どもの未来を明るくする
国も、何もしてこなかったわけではない。外国人児童生徒が学校での学習や生活に円滑に適応できるようにするため、日本語指導の初期学習から教科学習につながる段階までをカバーするものとして、平成13年度より研究開発を進めてきた「JSLカリキュラム」では、外国人児童に対する授業上の注意点が盛り込まれており、先生たちにとっては貴重なテキストだ。
しかし、根本的には、外国人児童は日本での教育義務を負っておらず、「国で一律の基準を設けるのは難しい」(文部科学省初等中等教育局担当者)という現実がある。これに対して前出の川上教授は、「日本には移民政策がない。つまりそれは言語教育政策がないということであり、『どんな人たちに、どんな活躍をしてもらいたいか。それにはどんな支援が必要か』というビジョンなしでは、受け入れる外国人やその子ども、もちろん日本にとっても不幸な状況を作り出す一方だ」と危惧する。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加やEPA(経済連携協定)などによって、世界ではモノだけでなく、人の移動もより盛んになってきている。「私は日本のTPPへの参加やEPAの推進を唱えてきたが、その足もとにある『外国人児童の教育問題』も同時に解決していきたい」という渡邊教授の思いから、「国境なき学び舎」の活動は始まった。生徒にとっても学生にとっても非常に意味のある活動であり、大学の多い都市部であればNPO法人化によって、より広がっていくことも可能であろう。しかし、根本的解決としては、やはり国がきちんと政策を打ち出す必要がある。そのためにも、こういったボランティアを経験した学生たちが、社会に出てからも問題意識を持って、教育現場をウォッチしていってほしい。
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