2024年11月22日(金)

補講 北朝鮮入門

2018年1月4日

米韓の離間、米国との衝突回避が狙いか

 韓国に対する対話攻勢が米韓間の離間策として位置づけられていることは、次のような発言から明らかである。金正恩委員長は「南朝鮮当局は、全同胞の運命とこの地の平和と安定を脅かす米国の無謀な北侵(北朝鮮への侵攻=攻撃という意味)核戦争策動に加担して情勢を激化させるのではなく、緊張緩和のためのわれわれの誠意ある努力にこたえなければなりません」と呼びかけ、さらに「北南関係は、あくまでもわが民族の内部問題であり、北と南が主人となって解決すべき問題です」と重ねた。

 つまり、韓国の文在寅政権に対して、これまでの「保守『政権』」とは一線を画し、米国の「追従勢力」(3回)であることをやめろと求めているのである。ここで強調される「わが民族同士」(3回)は、2000年6月に実現した初の南北首脳会談から一貫して北朝鮮が掲げるキーワードである。北朝鮮が「外勢」と呼ぶ米国を排除しようとする論理であり、米韓同盟を弱体化させようという意図をうかがえる。

 韓国の国内世論分断という効果も狙っている可能性が高い。北朝鮮を警戒すべき敵だと位置づける保守派と、融和路線を取る進歩派の間では対北政策は重要な対立軸だ。保守派の朴槿恵前大統領が罷免された後、進歩派の文在寅大統領が登場した現在の韓国では、ただでさえ保守派と進歩派の対立が深まりつつある。ここでさらに北朝鮮をめぐる対立が深まれば、北朝鮮には有利な情勢を作り出せるという計算だろう。

 同時に、米国との衝突を避けたいという思惑も透けて見える。「平和」は10回も連呼され(2017年は6回)、「責任ある核強国として、侵略的な敵対勢力がわが国家の自主権と利益を侵さない限り核兵器を使用しない」と強調された。

 2016年1月から外交を一切無視するかのように核・ミサイル実験を強行してきた金正恩政権だが、昨年9月3日の6回目の核実験の際から『労働新聞』の論調は明確に変化し始めた。

 核抑止力の確保に自信を深めたのか、9月下旬から金正恩委員長の動静報道から軍部隊への視察が消えて、経済関連活動と各種会議への出席ばかりが目立つようになった。11月29日のICBM発射の際には共和国政府声明を出して「勝利」を宣言したが、「新年の辞」の冒頭でも金正恩委員長自らそれを確認するような発言があった。「国家核武力完成の歴史的大業を成就した」と宣言し、2017年を「自力自強の原動力によって社会主義強国建設史に不滅の里程標を打ち立てた英雄的闘争と偉大な勝利の年」と規定したのである。

 統一政策の後には韓国との関係を除く対外政策全般について言及するのが恒例となっているが、その内容は抽象的な表現にとどまった。「わが国の自主権を尊重し、われわれに友好的に対する全ての国と善隣友好関係を発展させる」というトーンは例年と変わりなく、日本への言及も皆無である。その一方、「新年の辞」全体としては「米国」に対する言及が急増した(2018年11回、2017年4回)。核・ミサイル開発の主たる目的が抑止力の確保にあり、それは米国を意識したものであることを再確認したのである。米国との交渉は長期戦で挑む姿勢だと考えられる。


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