核弾頭と弾道ミサイルの量産と実戦配備を指示
国防分野については、「既にその威力と信頼性が確固と保証された核弾頭と弾道ロケットを量産して実戦配備すること」が指示された。これまでの北朝鮮の行動からしてこの部分に注目が集まってしまうのは当然のことであろうが、「新年の辞」で取り上げられた順序を見ると、核・ミサイルについての詳細な言及は例年と同様に経済、文化の後となっている。
核抑止力の確保を高らかにうたった後の段階が量産と実戦配備であるのは自然の流れである。「新年の辞」全体として国防部門は抑制されたトーンで一貫しており、やはり韓国への対話攻勢が際立っている。文字通り受け取るならば今年は一転して平和攻勢に出てきたといえる。
昨年末に『労働新聞』で何度も言及された「衛星」についての言及が無いことも気になった(2017年2回)。年末の時点では、核・ミサイル実験を一時的に停止して対話攻勢を進めるために「宇宙の平和利用」を強調して「衛星」を発射するのではないかと警戒していただけに、拍子抜けではある。これが陽動作戦なのか方針の転換なのかを判断するのは時期尚早であろう。
一方、治安組織である朝鮮人民内務軍に対しては、「不純・敵対分子の蠢動をそのつど摘発、粉砕」することを求めている。昨年12月に開催された第5回党細胞委員長大会には触れられなかったものの、「党の思想に反するあらゆる不純な思想と二重基準を絶対に許容」しないことが明示され、「党の権威乱用と官僚主義」が戒められた。このような表現は毎年繰り返されるものではあるが、「一心団結」(3回)を求めるのは、社会に「非社会主義的な傾向」が生じていることを裏付けていることにもなる。
経済制裁に耐える経済の「自立」めざす
金正恩政権は、国連安保理と周辺国による経済制裁が強化される中でも「人民生活の向上」(2回)を目指す姿勢を明確にしている。そうした状況下で最も接近しやすい相手として韓国を選ぶのは当然の流れであったろう。
金正日時代は「強盛大国」「強盛国家」などと称された国家ビジョンが提示されてきたが、金正恩政権は「社会主義強国」(8回)の建設を掲げる。今年の「新年の辞」では2016年5月の第7回党大会で示された国家経済発展5カ年戦略の3年目であるとして、「経済部門全般において活性化の突破口を開くべき」だと訴えられた。
「新年の辞」では毎年綱領的なスローガンが提示される。今年は「革命的な総攻勢によって社会主義強国建設の全ての部門で新たな勝利を勝ち取ろう!」で、1950年代後半に始まった千里馬運動になぞらえた「万里馬」についての言及が5回も見られた。「自立性」「主体性」(各2回)が重視され、「自立経済」「自力更生」(各2回)が訴えられたのは、経済制裁にも左右されない経済建設を進めていくという方向性が再確認されたものといえる。石炭から人造ガソリン生産を目指す「C1化学」(1回、2017年も1回)への言及が昨年に続いて見られたのも同様の文脈である。
各部門が遂行すべき課題については、電力工業、金属工業、化学工業、機械工業、軽工業の順番で言及があり、昨年まで3年連続で冒頭に触れられた科学研究への言及は後回しとなった。しかし全体として「科学技術」の重視姿勢は変わらず(8回、2017年6回)、他の分野の言及順は昨年から大きな変化は見られない。
特徴としては、随所に地方経済を特色づけて発展させるべきだとの方向性が示された(「地方」3回、2017年0回)。一方、今回の「新年の辞」では対外経済や「貿易」、「経済管理改善」に関する言及が一切無く、南北関係の改善をいかに経済政策全体に広げていくのかについての戦略は見えてこない。また、農業については昨年に続き「食べる問題」についての言及が無かった。食糧供給が比較的安定していることを示唆したものだ。