2024年7月16日(火)

補講 北朝鮮入門

2018年1月4日

平昌五輪までの南北関係が今年の情勢占う試金石に

 金正日時代に掲げられた「先軍」は今年ついに言及されなくなった(2017年は1回だけ言及された)。「先軍思想」のほか「主体思想」や「金日成・金正日主義」に対する言及もゼロだった。国内統治の観点から思想教育は重視されても、金正恩委員長のスピーチでその中身が掘り下げられることは稀である。

 昨年からの特徴としては、人民におもねるかのような姿勢を挙げることができる。一昨年までは金日成主席や金正日国防委員長に対する挨拶が入っていたが、昨年はその代わりに「偉大な人民がもたらした誇りに満ちた奇跡の偉大な一年」だったと前年を回顧しつつ「全朝鮮人民に最も崇高で厳粛な心で熱い挨拶を送る」と述べたのだ。金正恩委員長はさらに、「いつも心だけで能力が追い付けないというもどかしさと自責」を低姿勢で語り、「人民の真の忠僕」になることを誓うとすら述べた。これは「人民大衆第一主義」という用語とともに注目された。

 今年も「偉大な人民」「英雄的朝鮮人民」(各2回)などと謙虚さを見せている。これは、長年の疲弊した経済により民心が離れていることを認識しているためかもしれない。幹部に対する恐怖政治とは対称的であり、人民に対する微笑み戦術と言うべきものは政権発足以来6年間にわたって一貫している。

 しかし、お辞儀のほか冒頭で紹介した金正恩委員長のスーツの色、内容的には「医療」(3回)への言及が新たに見られたことなど、細かい点を挙げて掘り下げようと思えばキリがない。そもそも、元日に発信された施政方針が年間を通じて貫徹されるかといえば、必ずしもそうではない。とりわけ対韓政策や外交政策に関するくだりは、相手がいる以上、北朝鮮側の思い通りにはならないことも多い。

 しかし、「新年の辞」をその年に実現すべき目標を掲げる施政方針演説として重視していることは、今回、金正恩委員長自らが次のように発言していることからも明らかである。

 「まさに1年前、私はこの席で党と政府を代表して、大陸間弾道ロケット(ICBM)試験の準備が最終段階で推進されているということを公表し、この1年間、その履行のための数次にわたる試験発射を安全かつ透明性を持って行い確固たる成功を全世界に証明しました」

 韓国は、金正恩委員長の対話攻勢を歓迎し、2016年2月以来途絶えていた板門店で南北間を結ぶホットラインも再開された。平昌五輪開催の2月9日まではわずか1カ月である。だが、その間の南北関係の進展は、「新年の辞」以上に今年の北朝鮮情勢に大きな影響を与えることになるだろう。
 

  
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