西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年1月22日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 今回の予算成立をめぐっては、DACAとCHIPをめぐる二大政党間の対立が政府閉鎖につながったと指摘されている。DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)とは、幼少期に親に連れてこられるなどしてアメリカに不法入国した移民に滞在と労働の許可を与えるという、オバマ大統領が出した大統領令のことである。また、CHIP(Children's Health Insurance Program)とは児童医療保険プログラムの略称である。

 この事態を受け、民主・共和両党は、互いを激しく非難する事態となっている。トランプは、民主党は軍や米墨国境地帯の安全よりも不法移民の方を重視しているとtwitterで非難しているし、ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース報道官は、民主党は議事妨害を行う敗北者だと述べている。他方、民主党は、統一政府である以上、予算を通過させることができなかった責任は共和党にあると主張している。

 もちろん、二大政党共に政府機能が停止する事態を避けるべく、妥協の可能性を模索してきた。トランプは自らを交渉の上手い大統領だと自負してきた。しかし、今回の事態は、トランプの行動の予測不可能性の高さによってもたらされた部分があるといわざるを得ない。

トランプと民主党指導部による取引

 DACAについては、幼少期に家族に連れられて不法入国した人々は不法移民であるが、不法越境の責を本人に帰すのは妥当とは考えにくい。そのため、彼らの救済を目的として、Development, Relief, and Education for Alien Minors Actという法案(その頭文字をとってドリーム法と呼ばれる)がしばしば提出され、その対象となる人々はドリーマーと呼ばれている。オバマが2012年に出したDACAは、ドリーマーを対象とした大統領令だった。

 DACAはアメリカ国内でも一定の支持を得ていたが、2017年9月、トランプはその中止を発表した。だが、トランプはその後、民主党のチャック・シューマー上院院内総務、ナンシー・ペロシ下院院内総務と話し合い、国境警備強化と引き換えに、ドリーマーの強制送還を猶予し、彼らに滞在許可を与える政策を法制化することで合意した。ここでいう国境警備強化には米墨国境の壁建設は含まれていなかった。

 トランプと民主党指導部によるこの取引は多くの人に衝撃を与えた。不法移民対策強化を要求してきたトランプ支持者は驚愕し、共和党のミッチ・マコーネル上院多数党院内総務やポール・ライアン下院議長は、議会の共和党をバイパスしてトランプが民主党指導部と合意したことに複雑な思いを示していた。

 民主党は不法移民問題を含む移民対策が進展することを期待した。だが、実際にはトランプはDACA代替法案の成立に向けて積極的な姿勢を示さなかった。また、2018年に入ってトランプが、ハイチやエルサルバドル、アフリカなどからの移民を指して、「肥溜めみたいな国からなんであんなにやってくるんだ」と発言したと報じられ、民主党は移民問題について態度を硬化させることになった。民主党は、DACA代替法案への道筋が示されていない限り、予算関連法案を成立させるわけにはいかないという思いを強くしたのだった。

 他方、共和党指導部も、逆の方向で不法移民問題について強硬な態度をとるようになっていった。不法移民に寛大な態度を示せばトランプ支持者の反発を招くだけではなく、場合によるとトランプが予算法案に拒否権を発動するのではないかとの危惧を抱いたからである。そのため、DACAをめぐって二大政党が譲歩する可能性は狭められていった。

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