西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年1月22日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 アメリカの公的医療保険は、退役軍人を対象とするものを例外とすれば、高齢者と一部の障害者を対象とするメディケア、貧困者を対象とするメディケイド、そして児童を対象とするCHIPに限られている。そのCHIPは、1月19日の暫定予算が切れてしまえば予算がない状態となってしまうため、民主党はCHIPの予算措置を強く求めていた。

 最近のトランプはオバマケアに反対するなど、医療保険制度の公的な制度化に消極的な姿勢を示している。その延長線上として、つなぎ予算にCHIPに対する経費を含めるのに反対を表明したこともあった。トランプはそれを後に撤回したものの、この問題に対するトランプの真意は不明なままだった。このような状態で、共和党のライアン下院議長とマコーネル上院院内総務は、CHIPで妥協することによって民主党と取引を行う戦略を練っていたとされる。

 だが、トランプは民主党のシューマー上院院内総務に個人的な会談を申し入れて、マコーネルらを外した状態で取引を行おうとした。この90分に及ぶ会談で何らかの前進があったとシューマーらは指摘しているが、実際には、この会談は民主党指導部と共和党指導部による交渉の機会をつぶしてしまった。

世論は共和党に対して批判的

 このような事態が、近年のアメリカで、二大政党の対立が激化した結果として発生したのは明らかである。二大政党の対立激化の背景に、両党の勢力が比較的均衡するようになったことがある。一方の政党が優位する状況にあると、政治的な妥協が行われる可能性もあったかもしれない。しかし、二大政党の勢力が伯仲する状況下で両政党が妥協や協力をしてしまうと、有権者に対するアピールがしにくくなる。そのため、二大政党は他党との違いを示そうとして、対立状況を作りだす誘因が強くなるのである。

 これまでに予算停止が発生した際にも、二大政党が互いに責任を押し付けようとする傾向は存在した。そして、その状態を打破するきっかけは、世論にあった。2013年の予算停止時にも二大政党は互いに強く批判しあっていたが、各種世論調査でアメリカ国民がオバマよりも共和党に対して批判的なことが明らかになると、共和党主流派はティーパーティ派と距離をとり、譲歩するようになった。

 今回の予算停止について、世論は共和党に対して批判的である。CNNの調査では、予算が通過しなかった責任はトランプにあると回答したのが21%、共和党にあるとしたのが26%、民主党にあると答えたのが31%である。また、ワシントンポストとABCの調査によれば、48%がトランプと共和党に責任があるとし、民主党に責任があるとしているのは28%である。いずれの調査でも、世論は20%ほどの差をつけて、共和党側に責任があるとしているのである。

 では、今回の予算停止は共和党が譲歩することによって解除されるかというと、事態はさほど単純ではないかもしれない。というのは、近年のアメリカでは、単に二大政党の対立が激化しているだけでなく、アメリカ国民の間でもイデオロギー的な分極化が進展しているからである。

 民主党を支持するリベラル派は、主にCNNやMSNBCを視聴して政治についての情報を得ている。共和党を支持する保守派は、主にFOXニュースを視聴している。このように、両者は互いに異なる情報源に接し、物事を全く異なる形でとらえる傾向が強くなっている。また、近年ではSNSを通して政治についての情報を得る人が増えているが、例えばFacebookでは「いいね」を押すと傾向が類似した情報が繰り返しフィールドに表示されるようになるため、自らの政治的志向に合致する情報に集中的に接触する傾向が強まっていく。二大政党の支持者は、党派的な情報にばかり接触し、他党の立場に関する情報にあまり接していないため、有権者レベルでの協調が困難になってしまっている。

 このような状況下では、共和党が妥協をすれば、共和党支持者、とりわけ、保守的な人々は、党主流派の行動を裏切りと捉える可能性が高くなる。そのような評価を受けてしまうと、今年11月に行われる中間選挙で共和党の支持基盤が投票に行かなくなってしまう可能性もあるため、共和党は安易に妥協することができないのである。

 今回の政府予算の停止は、トランプ大統領の個性により問題が複雑化されたところがある。それと同時に、今日の二大政党の分極化と対立激化によってもたらされたものでもある。両方の要素ともに問題が根深いため、その根本的な解消は容易ではない。二大政党共に政府閉鎖が続くのは望まないため暫定予算を成立させるための妥協はいずれ行われるだろうが、正式の予算がいつ、どのような形で成立するかは予想がつかない。連邦予算をめぐる駆け引きは、今年の中間選挙、さらには、2020年の大統領選挙の行方にも影響を及ぼす可能性があり、注目する必要があるだろう。
 

  
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