そもそも、横浜市をはじめとする待機児童数が多いと言われている地域でも、実は満員の保育所は駅の近くだけで、少し離れたところには空きがあるというケースもたくさんあります。お迎えに便利な駅近の保育所から埋まるのは仕方のないことですが、このようにまだまだ現行の枠組みの中で工夫の余地があると思われるにもかかわらず、新たな「こども園」という仕組みが必要かどうか、疑問です。
預かり保育の先生が「お迎え」に来る
――そんな中、渡邉先生が園長を務められている、横浜市の初音丘幼稚園では、認定こども園が開始されるずっと前から、「預かり保育」を実施しています。
渡邉園長:横浜市から、待機児童問題解消のために、幼稚園を保育資源として活用できないかという呼びかけがあり、13年前からスタートさせました。幼稚園の基本時間帯は午前9時~午後1時50分、その前後の午前7時30分~9時、午後1時50分~6時30分、ないしは7時までが預かり保育の時間帯です。
幼稚園の時間が終わる頃、預かり保育専任の先生が、園児たちを「お迎え」に行きます。そして、親御さんたちのお迎えが来るまで、幼稚園内に設けた預かり保育専用の部屋でのんびりと過ごします。幼稚園での生活は、子どもたちにとって楽しいながらも、集団生活という非常に緊張度の高い環境に身を置いていることになる一方、預かり保育の時間は、幼稚園から家庭に帰ってゆったりと過ごす感覚です。このように、同じ園内にいながら、子どもたちは幼稚園と家庭を行き来しているかのような、メリハリのある生活を送ることができます。これが子どもにとってプラスになるということは、親や教育者でなくとも感じるところでしょう。
また、幼稚園の時間には同じ年齢の子どもたちと一つのクラスで過ごし、預かり保育の時間は、3~5歳の子どもたちが皆一つの部屋にいますので、兄弟のような感覚で、幼稚園の時間とはまた違った楽しい過ごし方になっています。これも、幼稚園だけではあまり経験できない触れ合いです。こども園でのクラス編成がどうなるかはまだ分かりませんが、認定こども園のような形を踏まえると予想すると、年齢別のクラス分けができたとしても、それぞれの子どもたちの在園時間がバラバラなので、集団での活動がなかなか難しいと思われます。このように、幼稚園での預かり保育の実施は、子どもの日々の生活や成長にとって非常に有効です。
親御さんたちにとっても、幼稚園で特色ある(幼児)教育をきちんと受けられ、保育もしてもらえるというのは大きなメリットでしょう。また、幼稚園の預かり保育は、就労しているお母さんだけでなく、専業主婦であっても、病気や介護など、仕事以外の理由でも利用が可能です。「家に帰っても遊び相手がいないし、外に遊びに行かせるよりも幼稚園で預かってもらえる方が安心する」という親御さんの声もあります。就労の有無を問わず、親の多様なニーズに応える環境を、現行の幼稚園という枠組みの中で、預かり保育という工夫によって整えています。
―さらに、預かり保育の開始とほぼ同時期に、0~2歳児のための横浜保育室(認可外保育施設)も開設されました。
渡邉園長:3歳児の保育をしていると、教育者として、自然と2歳児のことが気になってきます。0~2歳児は横浜保育室、3歳児からは幼稚園で、希望者には預かり保育を提供。そして私が経営する施設には学童保育もありますので、小学校卒業の12歳までずっと、親御さんは安心して地域に子どもを預けることができるのです。