こうした政策動向を反映して、自動車メーカーも電動化に舵(かじ)を切り始めている。例えばフォルクスワーゲンは25年までにEV、プラグインハイブリッド自動車(PHV)で80種以上を投入すると発表し、トヨタも25年ごろまでに全車種に電動モデルを設け、30年をめどに電動車を550万台生産すると発表した。16年の生産台数上位7社の主要メーカーすべてが電動化に向けた何らかの方針を示している。
自動車が急速に電動化する場合、石油需要にはどのような影響が及ぶのか。そこで、仮想的に30年に世界の新車販売台数の30%が、また50年までには100%がゼロエミッション自動車(ZEV)になることを想定し推測を行った(ZEVにはEV、PHV、燃料電池自動車を含み、ハイブリッド自動車は含まない)。
この普及スピードは、主要国で構成されるクリーンエネルギー大臣会合における、ZEVの新車販売シェアを参加国全体で30年までに30%にすることを目標とした「EV30@30」キャンペーンが世界レベルで達成される想定である。また、先に見たフランスや英国などの40年までのエンジン車販売禁止といった政策が、10年後には世界規模で展開される想定に匹敵する。ただし、自動車は平均して10年以上乗られることから、自動車保有台数におけるZEVの構成比は30年で14%、50年で74%となる。
こうした想定の下での自動車用の石油需要は、50年には現在の4割以下の15Mb/dまで減少する。一方、ZEVによる電力需要の増加を、仮にすべてを火力発電で賄うとしても、その中心は天然ガス火力発電・石炭火力発電であり、発電用石油需要は2Mb/dの増加にとどまる。
EV化で進む原油価格下落
石油需要全体では、30年ごろに減少に転じ、50年には89Mb/dまで落ち込む(下図)。すなわち、ZEVが世界レベルで急速に普及すると、ささやかれている石油需要ピークが実際に生じうる。
現在、多くの将来見通しにおける原油価格の考え方は、世界の石油需要が今後も増加を続けるため供給コストもより高くなるとの前提に立っている。となると、石油需要のピークアウトが一種のゲームチェンジャーとなり、需給の緩和圧力と市場の認識変化を背景として、原油価格を下落させることも十分考えうる。