Wedge REPORT

2018年2月6日

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藤岡聡子さん

 子どもを保育園に預けられるようになると、20代のうちに多様なスキルを身につけたいと渋谷の某ITベンチャーにインターンを申し込んだ。でも「自分には合わない」と半年で辞めた。その後、「親同士が学び合う」というコンセプトでNPOを作り「働きたい気持ちと子育ての両立」の模索を続けるなかで、第二子を出産した。

 模索を続ける中で20代最後にもう一度留学し学び直してみたい、と選んだ先が 「デンマーク」だった。「リカレント教育(学び直し)」「ギャップイヤー(高校卒業、大学卒業、就職などの間に自分探しの時間をとること)」などの発祥と言われるデンマークには、18歳以上の誰もが学ぶことができる学校があると知った。福祉先進国の姿を見てみたいと思った。

 そう思ったとたん、3歳の長男と乳飲み子の長女を抱えてデンマークに飛んでいた。「母親の介護、看取りを経験したので、老人介護はしばらく遠ざけたい」と考えていたが、幼児教育、若者や障害者の社会参画といったことを学んでいくなかで、「ついでに」という気持ちで現地の老人ホームを訪ねてみた。

 そこで、デンマークの介護3原則を知った。「自己決定」「生活の継続」「自己能力の活用」。「老いの生活」を自己決定するデンマークと、決められたメニューのなかで隔離されていく日本との違いに衝撃を受けた。

 そのとき思い立ったのが「福祉を再構築」だった。

「福祉」を地域の問題に

 帰国後「どこか拠点となるような場所はないか?」と、考えているときに出会ったのが、空き家からカフェ兼ゲストハウスとして生まれ変わった「シーナと一平」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10835)だった。地域の人がつながる「場」というコンセプトから、藤岡さんは「しいなまちの茶話会」を発案した。商店街のおじさん、おばさん、話し手の平均年齢は69歳、まちに長く住む人が、仕事や暮らしのことを語り、まちに住む人が聞くというものだ。

 「しいなまちの茶話会」を全8回、参加人数がのべ100名を越したタイミングで、編み物、裁縫、料理から英会話など近所に住んでいて技能を持つ人に先生になってもらうという「長崎二丁目家庭科教室」を週4日運営することになった。暮らしの中にある「認知症」「ダブルケア」「障害」などということについて、子どもと一緒に考えるワークショップにも取り組んだ。2017年4月に教室を始めて以来、参加者は937人を数える。

 こうした取り組みを続けるなかで、徒歩1分ほどの距離にある福祉作業所の工房を開いていきたいと「長崎一丁目工作室」の発案につながったり、「しいなまちの茶話会」の企画は2018年より近所のお寺でも行なわれることになったりと、活動範囲が広がっていった。

 藤岡さんが、老人ホームを経営するなかで持った「違和感」、そして母親を亡くしたときの「社会からの隔絶感」。その感覚をときほぐす解は、「場作り」にあった。地域に住む人を“知らない誰か”から“知っている誰か”にする。そうすれば「福祉」は、当事者や家族だけの問題ではなく、地域の問題になる。これこそ、福祉の再構築だ。

 親の死を受け止めるには早過ぎた小学6年生のとき。第一子誕生とほぼ同時に迎えなければならなかった母親の死。「今でも(親の死を)乗り越えられたのかどうか分からない」と、藤岡さんは言う。その悲しみは簡単に癒えるものではなく、経験したことのない記者のような者には想像を絶するものだ。

 ただ、「老いと向き合う」「死とは何か?」、そして「福祉とは?」というのは、いわば藤岡さんの両親が与えてくれた“宿題”であり、それに向き合ったからこそ、「福祉を再構築する」というコンセプトを導き出すことができたのだ。

 第三子を身籠った今、藤岡さんは新たな取り組みに向かって走りはじめている。2020年、軽井沢にて学校と地続きになった場所で、看取りができる介護・医療の場所を自ら運営する。「教育と福祉を横断することで福祉の再構築をより深めたい」という。温めてきたコンセプトがいよいよ花開くときが近づいている。

  
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