演説は、総じて、就任1年の成果を自画自賛し、引き続き「米国第一」の考え方を推し進めていく姿勢を示している。
失業率が2016年の4.7%から2017年には4.1%に低下し、成長率は2016年の1.6%から2017年には2.5%に増加するなど、経済指標は確かに良好であるが、米国経済の好調を全てトランプの手柄とするのは、いかにも無理がある。
通商政策に関しては、ダボス会議での演説と同じく「公正で相互主義的な貿易」を主張し、米国の通商法による一方的な措置を積極的にとることを宣言するなど、保護主義的な性格が改めて明確になった。トランプ政権の通商政策に変化の兆しはないと見る他ない。
トランプは、貿易赤字の削減を至上命題としている。しかし、2国間での均衡の追求は全体的な通商の縮小につながり、かえって米国の利益を損ねることになる。トランプは、その点を理解していないのではないか。
「何十年にもわたる不公平な貿易協定について新たなページをめくった」と言っているのは、NAFTA再交渉やTPPからの離脱などを指しているのであろう。しかし、NAFTA再交渉は難航しているし、TPP離脱は全く米国に利益になっていない。ピーターソン国際研究所が昨年10月に発表したレポートによれば、米国を含むオリジナルのTPPの下では、米国の所得は毎年GDPの0.5%にあたる1310億ドル増加するはずだったが、TPP11の下では、その増加分が失われるのみならず、米企業がTPP11の市場で不利になることで年間20億ドルがさらに失われることになる。TPPは、トランプが批判する、知的財産権の侵害や補助金による自国企業優遇などの中国のやり方に対抗する手段となる存在でもあるから、TPPからの離脱は逆効果である。「米国第一」を標榜しながら、米国の国益を損ねている。成果として誇れるようなものではない。
大規模減税とインフラ再建への大規模な公共投資については、好景気の中でこの二つを実施しようとしている点に懸念がある。好景気の中で景気刺激策をやるということであるから、インフレを引き起こし長期金利の上昇を招く可能性がある。また、これらの政策による、財政赤字の大幅な増大も、長期金利を招く原因となる。その結果、中長期的な景気悪化の恐れがある。財政赤字の増加は財政を硬直化させ、景気が悪化した際に追加的な財政的手段を講じることを困難にもさせる。なお、インフラ投資は明らかに、財政規律を重視する従来の共和党主流の財政保守主義とは相反するものである。今後、共和党員がどういう対応を示すかが、共和党の性格が変化しているかどうかの一つの指標となり得るであろう。
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