この駅弁には、東西の旅客と機関車が背を伸ばし息を整えた頃から、変わらない鉄道の味が息づいている。2004(平成16)年には御殿場線の開業70周年を記念して、昭和の昔の駅弁を再現した姿に変わり、さらに懐かしい味を出している。石炭の煙はもう嗅げないけれど、駅弁を買いホームのベンチで食べていると、山陽や九州から旅客を積んで機関車に燻された列車が煤けて駅西側から入線してくる気がする。そして、これを販売するプラットホーム上の立ちそば屋もまた、戦後昭和の雰囲気を存分に醸し出している。
沼津駅が昔ながらの姿を残していることは、駅の近代化が滞った証でもある。1979(昭和54)年に静岡駅と浜松駅が相次いで高架化事業を完成させ、沼津駅もその後を追うと思っていたが、長らく沼津市長選挙の争点となり続けるまま、国鉄がJRに変わり、昭和が平成に変わり、20世紀が21世紀に変わった。
2006(平成18)年11月にようやく、国土交通省と静岡県から沼津駅付近鉄道高架事業が認可されたが、今のところ昔懐かしい駅も駅弁も健在である。完成は2022(平成34)年度の予定という、まだ10年強の時間がかかる息の長い事業であるが、新しく便利で使いやすい駅がSL時代の臭いを払拭した時に、「御弁当」はどのような姿になっているのだろうか。立ちそば屋は間違いなく21世紀の姿になるのだろうが、この駅弁には歴史の証人として、地味かもしれないけれど今の姿のまま、生き続けてもらいたいと思う。
※次回は、2月3日(木)更新予定です。
どうぞお楽しみに!
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