2024年12月27日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年1月19日

 1月11日、米中関係史上稀に見る奇妙な出来事が起きた。この日の午後、中国の胡錦濤国家主席は北京に訪中中のゲーツ米国防長官と会談したが、中国軍は同じ日の未明、次世代ステルス戦闘機「殲20」の初試験飛行を断行して、米国のみならず世界全体を驚かせた。 

 飛行のタイミングからすれば、それはどう考えても、ゲーツ国防長官の訪中に合わせた挑発的「デモンストレーション」としか思えないが、その結果、北京滞在のゲーツ国防長官は大変困惑してしまい、同日行われた胡錦濤・ゲーツ会談もかなり異様な雰囲気となった。そして中国軍のこの挙動は、その後の米中関係に多大な影響を及ぼしているのである。

不本意な立場に立たされた胡錦濤

 一番肝心な問題は、「殲20」の突如の試験飛行は、胡錦濤主席自身が意図して指示したものだったのか、それとも主席の与り知らないところでの軍の独断によるものだったかであるが、筆者の私は、やはり後者ではないかと見ている。

 もし、試験飛行が胡主席の指示によるものであれば、それは当然、胡主席がそれを断行することによって実力を誇示して米国に圧力をかけ、自らの対米首脳外交を有利に進めるための策略であると解釈すべきだ。しかし、そうであるならば、胡主席自身がゲーツ国防長官と会談する日に合わせて試験飛行を行うような必要はまったくないと思う。その1週間前、あるいは数日前に行ったとしても、米国に対して実力を誇示し、圧力をかけるような効果はまったく同じだからである。

 外交の老獪さにかけては世界一の中国首脳の一貫としたやり方からすれば、たとえばゲーツ訪中の一週間前に飛行を行って実力を誇示しておいて、ゲーツ国防長官の訪中の期間中にはむしろ、「友好ムード」を作り出して米中協調を演出してみせるのが普通である。特に今回の場合、自らの訪米を直近に控えている胡錦濤主席は、ゲーツ国防長官の訪中を米中協調演出の機会にして自分の訪米の成功に繋げる思惑は見え見えである。

 したがって、胡主席の立場からすれば、ゲーツ国防長官が自分と会談する日にわざと試験飛行を行い、ゲーツ国防長官を怒らせて会談の雰囲気を壊そうとするつもりは毛頭ないはずだ。このような子供じみた「デモンストレーション」を行ったことで、自分の立場が逆に悪くなることくらい、胡主席はよく知っているのであろう。

 そして結果的に、試験飛行の当日に行われた胡錦濤・ゲーツ会談では、「試験飛行は私の訪問に合わせたものなのか」というゲーツ国防長官からの問い詰めに対して、胡主席は「そうではない」と弁明に徹するような不本意な立場に立たされた。格下の米国国防長官に対し、国家主席としてこのような弁明をしなければならないこと自体、胡主席にとっての面子丸つぶれ以外の何ものでもない。オバマ大統領を相手にしている胡主席の首脳外交は、その準備段階においてすでに「下風」に立たされた格好である。この一点を取ってみても、1月11日に行われた「殲20」の試験飛行は、けっして胡主席の主導によるものではないことがよく分かるのである。

今後の米中関係はどうなる?

 それどころか、胡主席と彼の率いる「文民政府」が今回の試験飛行を軍からいっさい知らされていなかった可能性さえ浮上してきているのである。


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