米国は、「核態勢見直し」(NPR)の報告書を、1994年に初めて発表し、その後2002年、2010年と8年ごとに見直し、今回は、4度目のNPR報告書となりました。
「核態勢見直し2018」は、全72頁に及ぶ報告書です。そのうち、概要約11頁を、米国防総省のホーム・ページで、英語の他、ロシア語、中国語、韓国語、日本語、フランス語で読むことができます。オバマ政権下の「核態勢見直し2010」では、日本語、韓国語訳はなく、国連公用語のアラビア語とスペイン語の要約でした。これらの変化からは、米国がアジアの同盟諸国を重視し、多くの日本人や韓国人に、内容をより良く理解してほしいと思っている表れなのかもしれません。そして、日本と韓国には、米国の核の傘、すなわち拡大抑止を保証するから安心して、核武装など考えないようにと言うことなのかもしれません。
内容に関しては、オバマ政権の2010年版は、核軍縮・軍備管理や核不拡散について多くの記述がありました。一方、今回の2018年版のNPRは、米国が、自国や同盟諸国、パートナー諸国の安全保障を守るためには、核戦力を保持し、近代化することが重要であることが強調されています。特に、潜在的敵対国と述べつつ、念頭に、ロシアと中国、北朝鮮とイランがあることが明確に示されています。この4か国については、昨年12月の米国国家安全保障戦略でも、本年1月の米国国防戦略でも、触れられています。ロシアや中国が一方的な行動をとっている現状を懸念し、今後対立する可能性を示唆しています。また、北朝鮮に関しては、その核・ミサイル開発が国連安保理決議に違反して継続されていることを非難しています。イランについては、「P5+1」(国連安保理常任理事国とドイツ)との合意はあるが、まだ十分信用できない、と報告書の中で述べられています。
上記NPRでは、米国が核戦力を保持し近代化させる理由を4つ挙げています。最も重要な理由は抑止力を高めることだと言います。これは「相互抑止」の伝統的理論に基づく考え方とも言えます。そして、同盟諸国やパートナー諸国への拡大抑止を行なうことで、核不拡散にも貢献すると言っています。これは、日本や韓国等を安心させ、これらの国内にある核武装論を宥める意味もあるでしょう。そして、NPR2018では、核戦力の有用性として、新たに、抑止が失敗した際の防衛手段、また将来の安全保障環境の不確実性が高くリスクが大きい中で担保としての防衛手段としても必要だとしています。究極の目標としての核廃絶は正しいとしても、現状では、使える核を米国は追求すると言うことです。
その使える核として、今回のNPR2018では、非戦略核の低出力核兵器の開発が計画されています。このことに関しては、欧米のメディア等(2月3日付ワシントンポスト紙社説、2月5日付英IISSハリーズ上席研究員の論説等)から、非戦略核の開発は不必要ではないかとの批判の声が出ています。米国の戦略核で十分ロシアに対抗できるし抑止にもなるという考えです。一方、非戦略(戦術)核ではロシアが優位にあるので、その優位を許さないためにも、米国も戦術核を増強すべきだと考え、それが核の柔軟性と多様性を強化し、ひいては将来の不確実性に備えるというのが米国の立場なのでしょう。
日本では、「唯一の被爆国」として、核兵器の廃絶や、最近では福島の事故の影響で核の平和利用としての原発をゼロにしようと主張する声が大きくなっています。ただ、現実的には、北朝鮮や中国等の脅威が増大する中、米国の核の傘の下で、自国の通常戦力を向上させ、着実に抑止力を高めていくことが重要です。
日本は、核不拡散体制の中では、核の平和利用を徹底させている優等生と言われています。その日本が、北朝鮮の核開発を放棄させるために、IAEA(国際原子力機関)を始めとする国際社会と連携して役割を果たせることは少なくないと考えます。その意味でも、2月15日にウィーンで行われた河野太郎外務大臣と天野之弥IAEA事務局長との会談は大きな意義があったと思われます。日本は核兵器保有国ではありませんが、日米同盟を基軸に、日米韓の連携を図り、国際社会と協力しながら、北朝鮮に圧力を強めて核兵器を放棄させることは不可能ではありません。
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