編集部:欧米の反応をどうご覧になりますか?
中東地域は欧州とも近い関係にあります。ですが、今回、元宗主国のフランスですら事態を静観し、ベンアリー亡命の受け入れを拒否しました。また、アメリカも、民主化自体は支持するけれども、飛び火したエジプト政権の弱体化は困るという立場です。
欧米は、地政学上も重要な中東地域の現状を、どのように見ているとお考えでしょうか?
――欧米は中東地域との深いつながりがあり、政府も企業も中東に関する高度な情報を蓄えてきました。しかし、これまでの状況に詳しければ詳しいほど、昨年末からの急速な状況変化は、予想できないものでした。
今回起きたチュニジアの政変も、外部から見る限り、突然の展開でした。専門家ほど、「予想外」と受け止めました。チュニジアはベンアリー政権の下、 国民を厳しく監視し統制しており、自由な政治活動も発言も封じられていました。新聞など、薄くて、情報もどこも同じ、翼賛的なものでした。チュニジアで出回る情報を分析している限り、ほとんど変化の兆しは見えなかったのです。
チュニジアは積極的に外資導入政策を進め、表面的には繁栄していました。水面下で国民の不満が高まっていることを、外部の観察者は気づいていませんでした。ベンアリー政権にとっても、反対勢力を弾圧し過ぎて、組織された活動が見えなくなったことで、かえって従来のやり方では組織されていない若年層の出現を見逃し、いざ不満が表面化した際に、対応を誤る結果となったのではないでしょうか。
米国の場合は、ムバーラク政権を中東の重要な同盟者として利用してきましたが、政権が国民を掌握していないと判断すれば、無理に支えようとはしないでしょう。ただし、ムバーラク大統領が代表する軍特権層が、例えば「ムバーラクは退陣する」「国際的知名度の高い文民を大統領にする」「自由な選挙を行う」と譲歩しつつ、軍が支配する体制の根本は維持しようとした時、オバマ政権は判断を迫られます。安定と一定の(形だけの)民主化を取って、デモ参加者たちのさらなる要求を切り捨てることになるからです。
編集部:中東情勢は予断を許さない状況が続いており、引き続き事態を注視することが必要です。どうもありがとうございました。
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池内恵「中東の眼 世界の眼」
「エジプトのデモ「特権集団」 軍が迫られる二者択一」
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