赤坂英一の野球丸

2018年4月11日

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2020年夏は〝地獄〟のスポーツイベントラッシュ

 しかし、スポーツマスコミには休みの返上を〝美徳〟とする気風がまだまだ残っているような気がする。いや、残っているだけではなく、むしろこれから復活しそうな兆しさえある。なぜなら、2020年に東京オリンピックが控えているからだ。五輪報道で中心的役割を果たすであろう私の友人は、こうした懸念を抱いている。

 「08年北京、12年ロンドン、16年リオと、オリンピックに携わったことのある人間なら誰でも知っている通り、大会期間中は本当に目が回るほどの忙しさです。一切休みが取れないのはもちろん、睡眠時間を確保するのも大変。

 しかも、東京五輪の開催期間は7月24~8月9日の17日間と、時期的にほかのスポーツイベントと近い。現に、7月は大相撲の本場所があって、高校野球の夏の甲子園大会とも重なっています。プロ野球のペナントレースは五輪期間中ストップすることになっているが、五輪が終わり次第すぐに再開する予定で、しかも過密日程となるでしょう。

 いま30代前半~50代前半で、働き盛りの記者やアナウンサーたちは、20年になったら夏休みなんて絶対に取れないと諦めている人もいるほどです。体調を崩して倒れる関係者もいっぱい出るんじゃないか」

 そうした事態に伴い、メディア各社の職場で、労働環境や休みを巡る上司と部下との小競り合いが多発することも予想される。そこで上司が部下に向かって嫌みを言ったり、声を荒らげたりすれば、これまたたちまちパワハラだと言われてペナルティーの対象になりかねない。このパワハラの解釈も大変厄介な問題で、悪質なパワハラはもちろん駆逐されなければならないが、一昔前だったら単なる口喧嘩で済まされていたケースも少なくないように思う。

 直木賞作家・海老沢泰久の小説『F1 地上の夢』はホンダがF1に参戦し、世界有数のドライバーたちとともに頂点を極める物語である。最初のうち、1960年代のころは失敗に次ぐ失敗の連続で、本田宗一郎は事あるごとに部下を罵倒していた。それもレースカーの組み立て室で、周りで人がごった返している中、「何だこれは、バカヤロー。犬小屋みたいな車を作りやがって」とこき下ろすのだ。

 ロンドンまで来て仕事が行き詰まる、有名なドライバーには乗車を拒否されるで、メカニックの久米是志は意気消沈。現場臨時監督の河島喜好と食事をしている最中、「ぼくは首でもくくりたい」と泣きついた。すると、こちらもイライラを鬱積させていた河島は、「黙ってきいてりゃ泣きごとばかり言いやがって」と激高。「首くくりてえだと? よし、首くくれ。おれが(下から)足を引っ張ってやる」と顔色を変えて絶叫した。

 これに逆ギレした久米は車を飛ばしてパブへ直行し、カウンターで「河島のバカヤロー」とわめき散らしながらスコッチ・ウイスキーをがぶ飲み。酔っ払い運転をして河島の待つホテルに帰り、翌日も酒臭い息をさせたまま、ヒースロー空港へ河島を送っていった。『F1 地上の夢』は一応小説ではあるが、そんな赤裸々なエピソードがすべて実名で書かれている。現代の労働基準を当てはめると、昭和時代のホンダはブラックもいいところだ。

 しかし、こういう人間たちがホンダのF1での勝利と成功に貢献したのもまた確かなのである。もし久米がロンドンで自動車事故を起こし、マスコミに書き立てられていたら、その後の隆盛も栄光もなかっただろう。

 いったいスポーツマスコミにおける理想的労働環境とはどのようなものなのか、私にはよくわからないまま30年が過ぎようとしている。結局、いかに働き方や労働条件が変わろうが、いい仕事ができるか、面白い原稿が書けるかどうかは自分次第、という当たり前の結論になってしまうのだが。

  
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