チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年3月10日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 中国の司法専門家は司法の現実をこう揶揄する。「警察は調理する。検察は調理されたものを運ぶ。裁判所はそのまま食べる」

キーワードは「安定維持」「敏感問題」

 前出・司法専門家が指摘するように中国司法に関して最も重大かつ深刻な問題は「独立」が担保されていないことだ。北京の別の人権派弁護士もこう解説する。

 「中国の政治体制である共産党の一党独裁体制は日米欧など民主国家と違い、(司法を統括する)共産党の政法委員会がすべてをコントロールしており、司法は独立していない。法律上は、司法部門は行政に干渉されないが、現実には干渉されている。重大な事案は政法委の許可がないと進まない」

 そして政法委員会が最も重視するのは、社会の安定である。「維穏」(安定維持)という言葉が中国社会を語る上でのキーワードとなっており、中国当局は弁護士らに対し、社会の安定化を助長する敏感な事案に介入しないよう強く指示している。例えば、天安門事件やチベット・新疆問題、中央指導部の腐敗、法輪功などは当然のこと、強制立ち退きやエイズ感染なども敏感な問題ととらえ、被害者が裁判所に提訴しても受理されることは少ない。

 「法律」は民衆の権利を守るという本来の役割を発揮できず、声を上げる民衆を抑圧するための当局の武器になってしまっている。そして裁判は法に基づき真実を追求する場ではなく、穏便に争いを収めるため「調停や仲裁を優先する」(中国司法研究者)場と化しているという。

「法律」より「政治」優先が現実

 法律を武器に敏感な問題に介入しようとする人権派弁護士の存在は、「維穏」を最優先する共産党指導部にとって目の上のたんこぶだ。党政法委の指示を受けた当局は、弁護士の活動を妨害するだけでなく、弁護士資格をはく奪したり、ひどい場合には国家政権扇動転覆容疑で逮捕したりするなど、弾圧を強めているのが中国司法の現実であろう。

 人権派弁護士を取り巻く環境は2004~05年以降深刻化しているという見方が一般的だ。それとともに「民」の声を抑え込む傾向もより強まった。北京の人権派弁護士は「中国では、『法律の執行』より『政治の安定』が重視される。いわば『愚民政治』に成り下がっている」と指摘したが、逆に言えば、当局は何より、「民」とのつながり強める人権気派弁護士らを恐れている証拠と言えよう。

 現実には、既に決まった「政治(判決)」について、上部機関や上司に逆らってまで「法律」を盾に覆す勇気を持ったティエンのような裁判官はなかなか存在しないだろう。

日本に追いつくのに「100年」

 冒頭の李方平は日本の裁判員裁判を傍聴したり、足利事件の佐藤博史弁護士らと交流したりして中国の司法・政治制度が日本の制度に追い付くのに「少なくとも100年かかる」と言い切った。李はこう漏らした。

 「日本の裁判所は外国人であろうが、誰でも自由に入れる。日本の司法制度の開放性は自信を示すものだ。日本の裁判官は被告の話を『聞いてから尋ねる』。中国は『尋ねるだけで聞かない』」。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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