作者(宮崎駿/みやざき・はやお)は原作の連載を4度中断している。そのたびに別の映画(「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」)を制作しているが、連載の中断は映画の制作に忙しかったためではなく、ナウシカのストーリー展開の重苦しさに精神が耐えられなかったからだと思われる。
そしてやがて連載は完結するが、原作のあのラストは成功していると言えるのだろうか。私には無理矢理終わらせたような気がしてならない。世界を救うのは、どう考えても容易ではない。
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奈良時代に、聖武天皇が大仏を造った理由は「すべての動物・すべての植物が、ともに栄える世の中をつくる」ためだった。
聖武天皇によって造立された、奈良・東大寺の大仏
撮影:著者
撮影:著者
そして「大きな力で造るな、たくさんの富で造るな」と命じた。一本の草や一握りの土をもって協力を申し出た人には手伝ってもらえ、とも命じている。一本の草や一握りの土など、なんの役にも立たないのに。
大地震、病気、旱魃飢饉〔かんばつききん〕。毎年のように災害が起きて、どうしようもないほどたくさんの人が死んでいく。聖武天皇は、それは自分の責任だと言う。私の政治が悪いから天が罰を与えるのだ。
牢屋に囚人がいるのは私の責任だとも聖武天皇は言う。私の政治がよければ、みんなが幸せになり、罪を犯す人はいなくなる。しかし、今、牢屋には囚人が満ちている。私の責任だ。責めはわれ一人にあり。
すべての動物・すべての植物が幸せになる世の中など絶対にありえないと私は思っている。すべての人間が幸せになる世の中など未来永劫実現するはずがないと私は思っている。残念ながら、悲しいけれど、そういう世界はありえないと私は思っている。