しかし、聖武天皇は、本気でそういう世界を実現させようと思っている。だから苦しむ。本気だから、苦しむ。
聖武天皇
聖武天皇は若いころから体が弱かった。体は弱いが、心は強い。精神力で生きているタイプである。でも、その心も苦しむ。できるはずのないことをしようとするから、ひどく苦しむ。そして、苦しみぬいた末に、大仏を造ることを決意した。
そのとき、大きな力やたくさんの富は、むしろ有害無用なものとなる。小さな力を無数に集めることにこそ価値がある。
「風の谷のナウシカ」では、「その者、青き衣をまといて、金色の野に降り立つべし。失われた大地との絆〔きずな〕を結ばん」という古い予言が繰り返される。
ナウシカこそ、その人であったのだが、ナウシカが身にまとう青い衣は、傷ついたナウシカが、傷ついた王蟲のこどもを抱きしめた時に、その体液で青く染まった衣だった。
もしも、世界が救えるものだとして、それができるのは、深く傷つき、苦しみ、その真っ直中を突き抜けた人だけではないか。苦難を乗り越えるのではなく、苦難の真っ直中を突き抜けた人。傷つき苦しんだ果てに何かが得られること、それこそが本当に尊いものであることを信じたい。
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今も、目の前のテレビの画面には、信じられないような惨状が映し出されている。
「風の谷のナウシカ」には、この世の終わりに腐海があふれでて世界を覆い尽くす大海嘨〔だいかいしょう〕なるものについて語られるが、あの大津波は大海嘨のようにみえた。
深く傷つき、深く苦しむ人々が、苦難の真っ直中を突き抜けて、ふたたび大地との絆を結ぶことを祈りたい。一本の草さえ持たぬ微塵〔みじん〕のような私ではあるが、全身全霊を込めて祈り続ける。
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