2024年12月23日(月)

古都を感じる 奈良コレクション

2011年3月16日

 3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震が発生した。あの大地震と大津波の映像には衝撃を受けた。言葉にならない。

 今からおよそ670年前、足利直義〔あしかが・ただよし/尊氏の弟/のち尊氏に殺される〕は夢窓疎石〔むそうそせき/禅僧〕に問いかけた。「苦しんでいる人が心を尽くして祈っても、なぜ仏菩薩は聞き届けてくれないのでしょうか?」

 そんなふうに思った経験は誰にでもあるのではないか。もちろん私にもあるが、700年近く前にもそんな疑問をもった人がいたのだ。

 「30年前、私も同じ疑いをもったことがある」、夢窓疎石は長い物語を始めた。

 そのころ夢窓疎石は常陸国(茨城県)にいた。久しく雨が降らず、すべての田畠は枯野のようになって、多くの人々が苦しんでいた。

 夢窓疎石は思う。なぜ龍王は雨を降らしてくれないのか。龍王は雨を降らす力はあるが、人を憐れむ心がないのだろう。そして私には人を憐れむ心はあるが、雨を降らす力がない。しかし、仏菩薩は龍王以上に雨を降らす力があり、私以上に深く人を憐れむ心があるのに、どうして人々の厄難を助けようとはしないのか‥‥。

 「風の谷のナウシカ」というアニメがある。

 「火の七日間」という大戦争で高度な文明が滅んでから千年。世界の大半は「腐海〔ふかい〕」におおわれ、人々は汚染された狭い土地で暮らしていた。腐海は瘴気〔しょうき/毒ガス〕を出す森で、王蟲〔おうむ〕をはじめとする巨大な虫たちが生息している。

 このアニメは、ナウシカという女の子が、たったひとりで世界を救おうとする物語である。

 実は、腐海は汚染されたこの星を浄化するために生まれたもので、腐海の木々は土の毒を吸って石化し、やがて崩れて清浄な砂になっていく。腐海の底は、瘴気のない、清らかな世界だった。王蟲たちはそれを守っている。

 そのことを知ったナウシカが、言葉なく涙を流すシーンは忘れられない。

 しかし、このアニメは、原作の初めの4分の1程度を改変して映画化したもので、原作はこのあと泥沼へ向かう。現実には、世界はひとりでは救えないからだ。


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