2024年4月19日(金)

解体 ロシア外交

2011年3月24日

 このコラムに対しては、反論が殺到したというが、それにしてもそのような提案が新聞に掲載されること自体が北方領土問題の大きな動きを感じさせる。

日ロ関係改善の契機?

 このように、日ロ関係が震災後に好転しているような兆しが感じられる。実際、震災を機に日ロ関係の改善の可能性を主張する声は少なくない。

 たとえば、14日のコメルサント紙は、2001年の9・11事件が(一時的ながら)米ロの蜜月をもたらしたことを前例に、今回の震災が北方領土問題での日ロ関係の緊張を緩和し、両国関係を好転させる契機となることを外務省関係者が期待していると報じた。

 また、ロシアとポーランドも長年関係が緊張していたが、2010年4月にカチンスキ大統領(当時)夫妻らを乗せた政府専用機がロシア領内で墜落する事件が発生してから、両国関係は劇的に改善しつつある。

 このように悲しい事件が国家関係を改善させるような事例がロシアの外交には少なくない。ロシア外務省でも、日本の復興支援が最大の目的であって、ロシアにとって実利的なことを考えるべきではないが、両国関係が新たな方向に向かうと信じたいという意見も多く聞こえてくるらしい。実際、震災後、北方領土問題は事実上「棚上げ」され、両国間の友好だけが目立っている。

 そして、ロシア政府は今回の対日支援について、日本が「友人」であるだけでなく、これまで日本が多くのロシアの災害で人道支援を行ってきたことを受けての返礼だという姿勢を表面的にはとっている。しかし、実際にはロシアの外交的なしたたかさも感じられる。事実、ロシアのコメルサント紙も今回のロシアの行動によって「領土問題(で生じている緊張)を抑制し、日ロの立場が近づくこと」が望まれると記している。

経済的に漁夫の利の側面も

 さらにプーチン首相は15日に東日本大震災が世界経済に影響を及ぼすことは間違いないと述べたが、一方、本震災でロシアが漁夫の利を得るのは間違いなさそうだ。

 実は、近年欧州では、カタールなどの中東・アフリカからのLNG輸出比率が増大しており、ロシアは欧州市場での地位を喪失しつつあった。そのような中で、既述の通り、ロシアは日本への支援のために欧州への天然ガス輸出を増加させれば、日本への支援をしつつ、欧州市場も維持でき、一石二鳥なのである。

 また、東日本大震災により日本の石油消費量が増加することが見込まれるだけでなく、原油価格が短期的に高騰することが予測され、原油に国家経済の多くを依存しているロシアにとってはまさに願ってもない好機とも言える。

好機を逃さないために

 このように、ロシアに政治的打算や経済的な漁夫の利を狙う思惑が全くないとは言えないが、それでもロシアの対日支援は非常に手厚いものであることは疑いない。ロシアが少なくとも日本との関係修復を模索していることは間違いなさそうである。

 日本は現在、外交どころではない状態である。それでも、日本はこの外交的好機を逃すべきではあるまい。現状が即、北方領土問題の解決に向かうとは到底思えないが、まずは対ロ関係を好転させ、交渉のより良い基盤づくりだけでもしておくべきであろう。

 
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