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2011年3月30日

 筆者が訪れた時も、はるばる宇和島まで来たから気を遣ってくれたのだろうが、13時に待ち合わせをして、取材をして、それから晩御飯に誘ってくれて、もう一軒はしごして午前様となるまでのほぼ半日、大竹はずっとしゃべっているし、その話題は豊富で場を飽きさせないし、もりもり食べるし、とにかく飲む。これは、すごいパワーの人だと驚いた。晩メシはもちろん焼き肉だ。

 「死ぬまでに絵本を一冊つくんなきゃいけないって法律があったらおもしろい。義務になると、納税感覚みたいで嫌になるかもしれないけど、誰だって一生のうちに一つくらい、おもしろい話があると思うんだよ。それを、手が汚れたり面倒くさい思いをしたりしながら、アナログで表現したらいい」

 たしかに、生命力を育みにくい世の中である。それでも、一人ひとりの内面には、いいものがあるはずだと、大竹は言う。自分は絵が下手だと思っていても、写真のように描くのばかりが絵じゃないから、その内面を外に向かって表現してみたらいいと。ルールを守ったり、知識を詰め込んだりするのもいいけれど、それに縛られて頭でっかちになってもおもしろくない。やることに飛躍もない。だったら一度、そこから自分を解放してみたら、抑えていたものが萌え出すかもしれないというのが、大竹の「絵本のすすめ」ではないか。

 「俺は、生きてる間に自分のやりたいことの答えが出るなんて思ってない。『一貫性がない』って批判も聞こえるけど、どうでもいいわけよ。そいつらは、俺の一生に関して何の保証もしてくれないしさ。最終的には自分の気持ちに正直になるってことに行き着くよね。だから、コンセプトよりも『思い』だよ。思いを素直に出すのが、人間の喜びじゃないかな」

 あらかじめプランやコンセプトやセオリーがわかっていれば、そうそう的は外さない。しかし、そうやって行動を規定していると、人間の潜在能力は退化するのかもしれない。今は、枠の中であれこれこなす安定感を評価してくれる人も、会社を離れた日から知らん顔をするに決まっている。たまには予定調和から飛び出して、よくわからないけど何だかおもしろそうだという感情に沿ってやってみたら、何が起きるか。結果を負うのは自分自身だけれど、そのほうが長い人生は楽しいものになりそうだ。(文中敬称略)

 

◆WEDGE2011年4月号より

 

 


 

 

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