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政治・経済

2018年6月1日

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石井孝明 (いしい・たかあき)

経済・環境ジャーナリスト

慶大経卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャル・ジャパン副編集長を経て現在、フリーで執筆活動を続ける。アゴラ研究所の運営するエネルギー情報サイト「GERP」の編集も担う。

広がる遺伝子組み換え作物
分別すると価格は1割超増

 GM作物は遺伝子操作で植物の性質を変えるもので、日本では1996年に商品化された。特定の害虫が食べないなどの性質を与えることができ、収穫が増えて農家の作業の手間も減るために、世界で生産が拡大した。米国では大豆、トウモロコシの生産の9割以上がGM作物だ。一部の消費者に、こうした食物による健康被害の懸念はあるが、安全性が認められたものだけ流通している。

 EUでは遺伝子組み換えの表示が免除されるのは混入率0・9%未満と、GM作物が商品化されたときに、厳格な分別が必要な制度をつくった。ただし、これには隠れた理由がある。EUは域内で穀物の自給率が高く、米国と農作物の市場開放をめぐり争い続けている。米国企業が開発したGM作物の表示制度を厳格にして非関税障壁にし、EU域内でそれを流通しづらくさせる意図もあったようだ。

 日本は中国やメキシコなどと並ぶGM作物の大量輸入国だが、その大半は家畜の飼料や、植物油に使われている。日本は穀物を輸入に頼らざるを得ない。その状況と、消費者の不安に対応し、輸入商社や業界団体の食品産業センターが2001年から、米国、カナダの穀物生産者団体と協力し、非遺伝子組み換え(Non−GM)を選別する流通の仕組みを大豆とトウモロコシで自主的に作った。これが現行のGM作物の表示制度を支えている。

 米国、カナダではGM作物が栽培の大半だ。刈り取り機器や運送用コンテナは同じものを使うため清掃しても混じることがある。またトウモロコシは風で受粉するためNon−GMがGMになることもある。消費者庁が16年に米国やカナダで行った調査では、Non−GMを分別流通した場合でも、大豆で0・3%、トウモロコシで4・1%混じっていた。現行制度が5%までの混入に「遺伝子組み換えでない」と表示することを認めたのはこのためだ。

 仮に今回の制度変更に合わせて、完全に分別されたNon−GMを日本の食品産業が調達を始めたら、米国の農家はどのように動くのか。アメリカ穀物協会日本代表の浜本哲郎氏は「丁寧な分別をすれば、生産や流通過程で労力がかかる。日本のお客さまが完全に分別したNon−GM作物をほしいと言うなら、米国の生産者はプレミアム(上乗せ価格)をいただければ作るだろう。今は生産余力がある」と説明する。プレミアムは契約ごとにさまざまだが、価格の1~2割になる例があるという。食品表示制度を厳格にするほどコストが増え、結局は消費者の負担が増えるわけだ。

 新しい表示制度に向き合う企業の意見はさまざまだ。あるビール会社の製造担当幹部は「GM作物は安全性が確認されている。だったら安いそれを使い、その事実を表示したい」と話した。最近のヒット作「第三のビール」「発泡酒」は、価格の安さを選ぶ消費者の志向から生まれた。しかし、この個人的意見は、なかなか社内で通らないようで、「実態のよく分からない『消費者の意向』に、私たちは振り回されている」と嘆く。


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