女子高校生やOLが自宅で肉を培養。それだけでも衝撃的なのだが、その方法を冊子にまとめてコミケで頒布しているという。畜産農家が時間をかけ、手をかけてつくる食肉の概念が揺らぐ。まさか「肉を培養する時代」になろうとは……。しかし、そうした時代は目前に来ているらしい。
SFの定番、培養肉が食卓に並ぶ
急増する人口と、それに伴うたんぱく質需要の拡大は、世界の食の安全保障を危うくしている。そうした状況は、たんぱく源確保と環境問題の解決に向けて、アメリカを中心にいくつかのスタートアップを誕生させた。植物由来の肉の代替品を開発したビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズ、動物の細胞を培養して肉をつくるメンフィス・ミーツやモサ・ミート(オランダ)はその代表だ。もちろん、日本にも培養肉を研究する研究者がいる。羽生雄毅氏だ。
――そもそも、なぜ培養肉をつくろうと考えたのでしょう。
羽生:SF映画に出てくるからです。『ドラえもん』にも『ジャングル大帝』にも、出てきますよね。培養肉はSFの定番です。
――ということは、子どもの頃から考えていた?
羽生:5歳くらいでこういうものがあるんだと知り、いつかSF的なことを実現しようと、この方向に走ってきたような気がします。培養肉のほかに、宇宙船とか火星工場もあるなと考えてはいたのですが、これらはまだ少し先の話だろう。それなら、自分の専門分野である有機生物寄りの化学でやってみよう、と培養肉の研究を始めました。
まさかの回答であった。国連が発表した「世界の食料安全保障と栄養の現状2017」によると、飢餓人口は世界人口の11%に当たる8億1500万人に達している。「食料問題解決の一助になれば」などという正義感満載の答えが返ってくるものと想像していた凡人はたじろぐしかない。
羽生雄毅氏は細胞培養によって純粋培養肉をつくることを目的とするShojinmeat Projectの代表であると同時に、その大量生産を目指す企業・インテグリカルチャーの代表でもある。
純粋培養肉とは、その名の通り生物の細胞を培養液内で培養してつくる肉のことで、羽生氏らはこれを「純肉」と呼んでいる。実は、この名称に落ち着くまでにはさまざまな議論があったらしい。名称によって消費者のイメージは大きく変わる。アメリカでは「クリーンミート」と呼ばれ始めている。これを日本でどう呼ぶかという時、羽生氏らはカタカナ語をこれ以上増やすのはやめようということで「純肉」にしたのだという。
日本ではまだ馴染みの薄い純肉だが、2013年にはロンドンで人工肉のハンバーガーの試食会が開かれている。この研究を進めたのは、モサ・ミートの創立者の一人であるオランダの生理学者マーク・ポスト氏。試食会の培養肉200gの製作にかかった費用は2,800万円といわれている。
羽生氏は、この非現実的な金額を画期的に抑えることに成功した。従来の細胞培養では培養液に最もコストがかかっていたが、これを見直すとともにフロー方式の大規模細胞培養にすることで、100g当り数百万円だったコストを、3万円以下に抑える技術を開発したのだ。あとは規模の経済の問題で、製造原価で100gあたり20円を目指すという。