2022年8月12日(金)

食卓が変わる日

2018年5月11日

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「細胞農業」と「再生医療」の同時進行が新しい世界をつくる

――動物の細胞なら何でも培養できますか?

羽生:牛であろうと鶏であろうと、まったく問題ありません。もちろん、人の細胞でも可能です。前者は「細胞農業」といわれる分野、後者は「再生医療」といわれる分野です。この二つは非常に近い関係で、相乗効果も大きい。

 たとえば、iPS細胞からつくった網膜細胞の移植手術がニュースになりましたが、あの時は1億5000万円かかっています。再生医療はコストがかかりすぎることが現在の課題になっていますが、そこに細胞農業の技術が入ればかなり安くできます。ただ、医療の場合は法的規制が非常に厳しい。その点、食料の場合のハードルはそこまで高くないという違いがあります。

 しかし、将来は「ハツ100g当り100円」なんて感じで人の心臓ができるようになるかもしれません。

――体の一部として使われるか、口に入るかの違いだけということですか。

羽生:アプローチはかなり違います。なぜ細胞培養が高くつくのかといえば、「極少量、超精鋭」だからです。あたり前ですが、再生医療では99.99のあとにさらに9が6つも7つも続く完成度の高さが求められます。しかし、食品の場合はそこまでは求められていません。私たちが培養液を見直し、コストの削減に成功したのも、再生医療の培養方法は食肉の培養にはオーバースペックだったためです。

 また、医療ではすべてのモノにトレーサビリティが求められます。つまり、モノそのものとは関係ないところで膨大なコストがかかるのです。しかし、食品の場合はどの農園のだれがつくり、どの流通センターを通ってきたかがわかればよい程度。だから私たちは、ここから入ることにしたのです。

 純肉のメリットの一つに安全性がある。日本でも2001年あたりから問題になった狂牛病は、食品業界だけでなくさまざまな業界を巻き込んで市民生活に影響を与えた。純肉ならこうした問題は回避できるというわけだ。また、食中毒などの病原菌を減らせることもメリットの一つだ。工場で生産される純肉は、少なくともその生産のプロセスにおいては管理されており病原菌が入り込む可能性は低くなる。

 さらに、羽生氏は「デザイナーミート」という言葉を使って、さまざまな肉の可能性を示唆している。たとえば、「牛肉だけれど脂は魚脂」「DHA・オメガ6を増強した肉」といったように、肉に新しい機能を付加することも可能だという。ここまでくると、SFの世界に入ってしまった気になるのだが、羽生氏の軽快な口調は「そうなるのかも」という気にさせるから不思議だ。

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