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食卓が変わる日

2018年5月11日

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自宅でDIY、つくるのは壊れた肝臓?

 羽生氏やShojinmeat Projectの情報発信はニコニコ動画や各種イベント、コミックマーケット(コミケ)が中心だ。いわゆる「オタク」といわれる人たちが対象だが、彼らの実行力と熱意、情報共有の多様さには驚かされる。

――Shojinmeat Projectでは、会員の高校生やOLがすでに自宅での培養肉づくりに成功しているそうですね。

羽生:培養液にスポーツドリンクを使ったり、食塩や重曹、ビタミン剤で代用するなど、低価格でもできる方法を編み出し、つくり方はネットで公開しています。スポーツドリンクは高価な培養液と成分が似ていますから。小説「君の膵臓を食べたい」からもじった「君の肝臓を食べたい」というプロジェクトでは、鶏の肝臓細胞から「培養フォアグラ」の製造に成功しました。このとき培養できたのは1.23g。もちろん、自分たちでも食べてみましたよ。

 こうした実験が進むと、生体組織工学が手軽に自宅でできるようになります。私たちはそれを『なまものづくり』と呼んでいます。自分でなまものができるようになると、DIY臓器の可能性も出てきますね。お酒を飲み過ぎて、肝臓をこわしてしまった人が自宅で自分の肝臓をつくって病院へ持っていき、医師に『これに替えてください』なんて依頼する。臓器持ち込み内科外来、というところでしょうか。

 羽生氏の純肉構想はとどまるところを知らない。

 DIY臓器はともかく、個人で自由に細胞培養できるようになると、神戸牛や松坂牛といった牛肉の産地ブランドが個体ベースになる可能性があるという。こうなると地元の畜産家にもチャンスが回ってくる。たとえば、特に肉質の優れた牛の細胞を培養して独自のブランド牛を製造・販売できるようになるというのだ。

2028年にはスーパーに純肉が並ぶ?

――培養肉が大量生産されるようになるのはいつ頃でしょうか。

羽生:スーパーで買えるようになるのは2028年頃を目指しています。ただし、フォアグラはもうつくっていますからもっと早く、東京オリンピックに合わせてデモンストレーションを行う予定です。早ければ2023年には試験生産をしてどこかのレストランで出してみることも可能ではないかと考えています。ただ、流通にのせるには、適用される法律や安全基準が違いますし、それらの整備も必要ですから未知数も多いですね。

――インテグリカルチャーが生産するのですか?

羽生:いえ。実は、インテグリカルチャーが持っているのは肉をつくる技術ではなく、「汎用大規模細胞培養技術」です。いろいろな細胞を大規模に計画的に培養できる技術、といえばわかりやすいですね。将来的にはつくるものも培養肉に限定することはなく、再生医療用の肝臓や心臓もつくります。この技術を使えば、iPS細胞が大規模培養できるかもしれません。もちろん、それには別の研究開発が必要ですが、私たちはメインで純肉を消費者に売りたいわけではなく、むしろ細胞農業のインフラを提供したいと考えています。

 羽生氏が抱くインテグリカルチャーのイメージは生ものづくりのOEMメーカーだ。肉をつくる一方で、心臓もつくっている。インテグリカルチャーは生ものづくりのホンハイのようなものになるかもしれないと将来を展望する。

 一方のShojinmeat Projectでは個人がつくりたいものをつくる。その中で商品化できるものがあればインテグリカルチャーで量産して販売する。2つの組織が研究と開発を異なるスタンスで展開し、相乗効果を生む。インテグリカルチャーは「産業化」、Shojinmeat Projectは「民主化」を目指しているという。

「そこが私たちとメンフィス・ミーツの大きな違いです。メンフィス・ミーツは今のまま進めば純肉の企業独占になってしまいます。しかし、私たちはプラットフォームをつくろうとしており、いろいろな人がいろいろなものをつくればいいと考えています」(羽生氏)

 ちなみに、メンフィス・ミーツはサンフランシスコに拠点を置く企業で、2021年までに培養肉の一般販売を目指しているという。

「2035年くらいになって純肉が成功していたら、私は、次はどのSFを実現させようかと考えているでしょうね」(羽生氏)

 純肉が食卓に並ぶ日は、そう遠くないようだ。その頃には、家庭用純肉培養器が普及しているのかもしれない。

  
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