食卓が変わる日

2018年5月11日

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畜産が抱える問題の解決策となりうる純肉

 純肉の最大のメリットは、自然環境保護の切り札となりうる点だろう。畜産が抱える問題は多い。家畜を放牧することから起こる森林破壊、ふん尿の処理にともなう水質の汚濁といった環境破壊、牛のゲップによって発生するメタンガスは全世界の15~20%にもなると言われている。また、メタンガスは二酸化炭素の20数倍も温室効果が高いという。

 そうした環境問題に加えて食料需給のバランスが崩れることによる食料の争奪戦も現実のものとなっている。穀物の奪い合いについては、家畜と人、国と国の二重構造が状況を悪化させている。

 畜産物を生産するには、飼料となる穀物が必要だ。肉1kg生産するのに牛なら11kg、豚なら7kg、鶏なら4kgの穀物が必要だといわれている。そして困ったことに、今や世界の穀物生産量の半分は畜産の飼料に使われている。ちなみに、成長著しい中国は食生活の西洋化とともに肉の需要が拡大し、飼料という形で米国の大豆の全生産量の3割である3000万トン、ブラジルの6割である5000万トンを含む、9000万トンに迫る量を輸入している*。中国だけでなく、インドとアフリカも将来に穀物の大量輸入を始めないとも限らない。

 家畜を育てるために大量の穀物を消費することで、人間が食料不足に陥るという矛盾が生じているのだ。

 その一方で、温暖化により農業そのものの生産リスクは高まっている。さらに、その動物を殺すこと自体も非難されている。

*参考:https://worldview.stratfor.com/article/brazil-china-soybeans-united-states-trade-war

――純肉は動物愛護団体から支持されていますか。

撮影:編集部

羽生:動物を殺さない純肉は、アメリカの動物愛護団体からは支持を得ています。しかし、そのなかでも「自然派」といわれる人たちにとってはまったく自然ではないため、動物愛護者の間でも意見が分かれています。一方、東アジアは食料安全保障という大きな問題を抱えていますから、動物愛護が議論にのぼる余地はなく、中国やシンガポールなどは純肉に強い関心を抱いています。

――純肉に関する規制はないのですか?

羽生:今のところ、どの国も未整備です。そもそも、純肉がどのような商品カテゴリーに入るのかも決められていません。日本の場合、畜産物なら農林水産省ですが、加工品なら経済産業省です。培養肉はどちらだと思いますか?

――大量に流通するようになると、規制が生まれるかもしれませんね。

羽生:遺伝子組換え食品の場合もそうでしたが、感情論で規制づくりが進んでしまう可能性があります。遺伝子組換え食品は世界中で数限りなく食べられていますが、それで病気になったという話は聞きません。それでも、感情的に受け入れられない人はいるでしょう。

 純肉はたんぱく源の切り札となりうるうえに、家畜も飼料も牧場も不要なことから環境問題解決の糸口にもなる。羽生氏のSF世界は現実社会において問題解決へと向かっているのだが、本当にそれを食べるのかと考えると、どこかで躊躇する自分もいる。

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