毎年続く表示見直し
困惑する食品メーカー
一方、ハウス食品はスナック菓子「とんがりコーン」で「遺伝子組み換え原料の混入を防ぐため、分別流通されたとうもろこしで作ったコーングリッツを使用しています」と、すでに今回の議論を先取りする形で現行制度よりも詳細に表示している。その包装を見ると横面は文字だらけだ。同社品質保証部部長の佐合徹也氏は「表示はお客さまに情報を提供する重要な手段であり、自発的に詳細にした」という。
ただしGM作物への消費者の関心はそれほどではない。ハウスは一般向けに約1000の商品を提供し、問い合わせは毎年約2万件となる。ところがGM作物関連の問い合わせは年20件前後にすぎない。
食品表示制度の目的は、消費者への情報提供だ。しかし「制度で示される情報が本当に必要とされているのか」という疑問は、食品産業に広がる。消費者庁の検討会の委員でもあった食品産業センター企画調査部長の武石徹氏は、「消費者保護の名目の下にさまざまな表示制度がめまぐるしく変わる。事業者の負担は大きい」と話す。
新しい食品表示制度が15年に施行され、栄養成分やアレルギーの表示が詳細になった。昨年9月からはすべての加工食品に原料原産地表示が義務化された。今年は遺伝子組み換え、来年は添加物表示が見直される可能性がある。「商品の包装材を捨て新たに書きかえる場合、商品数の多い大手メーカーでは、表示システムの整備なども含めて負担は数千万円になる」という。
消費者保護活動は良いイメージがあるために政治家が動きやすい。GM作物の2001年の表示制度づくりは、河野太郎衆議院議員が熱心に取り組んだ。彼は内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)として、15年に食品制度の詳細化を指示した。また日本の消費者は国産食材を好む。小泉進次郎衆議院議員が部会長だった自民党の農林部会は、TPP対策の一環として国産食材のPRにつながる加工食品の原産地表示を主張し、それが同年閣議決定で政策化された。
世論を背景に政治家が政策を主導することは必要だが、制度を変えれば現場の負担は増える。また消費者保護の名目で、表示をどんどん増やそうという主張は常にある。今回のGM作物の検討会でも、消費者団体はそう主張した。武石氏は「食品産業に消費者への情報提供を積極的に行うべきというコンセンサスはある。しかし情報提供にはコストへの配慮と、科学的な知見に基づき重要なものから取り組むメリハリが必要だ」と指摘した。