翌日の5月23日には、米中外相会談がワシントンで開かれた。会談後の記者会見でも、6月12日の米朝首脳会談は開催されるのかという質問が記者から寄せられた。ポンペオ国務長官は、予定通り開催されると述べ、王毅外相も期待感を示した。両者は、同時に国連の安全保障理事会の制裁の履行は継続する旨述べ、ポンペオ長官からは、「完全かつ、不可逆的、検証可能な非核化」(CIVD)の必要性が語られた。
そして迎えた5月24日の書簡の発表だった。想定内と言っても、一番驚いて困惑したのは、米朝首脳会談を最初から仲介者としてお膳立てしてきた韓国の文大統領だったのかもしれない。文大統領は、5月26日、事前公表のないまま、第2回目の南北首脳会談を電撃的に実行した。同じ頃(米国時間では5月25日)、トランプ大統領はまたツイッターで重大なことをつぶやいた。米朝首脳会談を再設定することを北朝鮮と話していて、その場合は、前と同じシンガポールで、6月12日に行うか、それ以降も開催することもあり得るとツイートした。米朝間の外交当局が直接交渉していることが分かるが、おそらく北朝鮮への説得に中国等も動いているのだろう。
5月26日の南北首脳会談に関して、翌27日、文在寅大統領が会見を行い、第2回の南北首脳会談は金正恩委員長の要請で行われたことを明らかにした。金委員長は、米朝首脳会談を前に、中国の後ろ盾のみならず、韓国を自分達側に付けて、自分を少しでも大きく見せてトランプ大統領と交渉したいのだろう。
北朝鮮は、5月23日から同国北部の豊渓里にある核実験場を破壊する現場に、米中露英韓のメディアの取材を受け入れ実験場の爆破を行った。これに対して、トランプ政権は特にコメントしていない。トランプ大統領は書簡においても、3人の米国人の釈放には謝意を表明したが、核実験場の件には触れていない。
5月24日のトランプ大統領の米朝首脳会談中止の発表から3日も経たないうちに、やはり開催予定との、一転二転の決断の変化は、トランプ大統領の気まぐれか、それとも金委員長の迷える行動が原因なのか。一つ、はっきりしていることは、トランプ大統領の書簡とツイート、記者団への発言には、ある一貫性があることだ。それは、韓国や中国の仲介者を通して物を言ってくるのではなく、金正恩委員長に直接対話を求めていることだ。正式な外交書簡では、直接に電話をするか書簡を送ってほしいと言い、さもなければ、シンガポールでじっくり直接話そうと語りかけた。さて、金委員長との直接対決はどうなるのか。
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