2022年8月8日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年5月30日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 北朝鮮の強硬な態度の背景には、中国の思惑が見え隠れする。トランプ大統領は、5月17日、北朝鮮が強硬な態度に転じたことについて、「中国の習近平主席が北朝鮮の金正恩委員長に影響を及ぼしている可能性がある」と述べている。3月下旬の訪中からわずか40日後の5月8日、金正恩委員長が再訪中し、習近平主席と再度会談した後に、北朝鮮が突然態度を硬化させたからである。

 米国の圧力に耐えかねた金正恩委員長が、米朝首脳会談を目前に、習近平主席に助けを求めた可能性があるのだ。北朝鮮が助けを求めたことは、中国にとっては、北朝鮮に対する影響力を回復する機会と捉えられただろう。習近平主席はトランプ大統領との電話会談などで、北朝鮮の主張を代弁し米朝首脳会談の実現に向けて調整するとみられていた。

 中国の後ろ盾を得て北朝鮮が強硬な態度をとり始めたことは、中国が北朝鮮の非核化問題における存在感を高める結果を生んだ。5月23日、ポンペオ米国務長官と王毅中国外相は、ワシントンの国務省で会談したが、会談後の共同記者会見において、王毅外相は、トランプ大統領が6月に予定されている米朝首脳会談の延期を示唆したことについて「平和が欲しいなら、歴史をつくりたいなら、今がその時だ」と述べ、予定通りに開催するよう促している。

経済面における米中の実力差

 中国にとって、北朝鮮に対する影響力は、経済面での米国の対中圧力をかわす取引に用いられるカードとなる可能性もある。中国にとっての優先事項は、米国からの強い圧力によって自らの経済活動に支障が出るのを避けることなのである。

 例えば、2018年4月16日、米国商務部は米国企業に中興通訊(ZTE)との取引を禁じると発表した。中国の通信機器大手のZTEは、米国商務省から「欺瞞(ぎまん)、虚偽の供述と再三にわたる米国の法律違反」と非難されている。この結果、ZTEは倒産の危機に瀕し、中国の政府及び国民に対して、米国と中国の実力の差を見せつけることになった。

 中国は、その急速な経済発展によって世界第2位のGDPを誇ることとなり、その自信を隠さなくなってきたが、実際には、米国の経済的圧力は中国経済に大きな打撃を与えるのである。その結果、米国との貿易協議において、大幅な譲歩を迫られることになった。

 米中の協議では、激しい駆け引きが続いたと報道されたが、それだけ米国の圧力が強かったということである。2,000億ドル相当の米国産品の輸入については、中国外交部は否定したものの、米国からの輸入を大幅に拡大するという譲歩を行わざるを得なかったと考えられる。

 米国の圧力が強くても中国が協議を決裂させられない状況が、米国の圧倒的優位を物語っている。何としてもZTEに対する制裁を避けようとして大幅な譲歩を見せる状況は、中国のハイテク産業の根幹を担う企業であっても、その製品は全て自前の技術だけから製造されているわけではないことを示しているのだ。

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