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チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年5月30日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

米国の実力行使を排除して
経済発展を継続するために

 しかし、中国も一方的に譲歩を迫られる状況に甘んじるつもりはない。現段階では、米国から大幅な譲歩を迫られているが、同時に、米国の圧力を跳ね返す実力をつけようと努力している。米国が中国の経済発展を妨害するという危機感は、中国の急速な軍備増強にもつながっているのだ。そのため、中国が言う「米国の妨害」を排除するためにとる行動については、慎重に分析しなければならないのである。

 中国は、「屈辱の百年」という非常に強い被害者意識を持っており、「過去の繁栄を取り戻す」権利があると強く信じている。現状が間違っていると考えるのであるから、各国が現状を尊重するよう求めても議論にはならない。中国は、自らの権利の行使を妨害されていると考えれば、強硬な手段をとる可能性があるということだ。

 現在、中国は軍備増強を進めているが、米国の圧力を実力で排除できないと考える間は、他の対米カードを利用しようと考える。だからこそ、北朝鮮に対する影響力が対米カードになり得ると認識するのである。

 中国はまた、北朝鮮に強硬な態度をとらせて、米国の真意や出方を確認しようとしたとも考えられる。そうだとすれば、トランプ大統領の米朝首脳会談中止の通告は、中国の危機感を高めたかもしれない。トランプ大統領が、米国の秋の中間選挙を意識して、平和的イメージを損なわないよう、北朝鮮の揺さぶりに対して譲歩するかもしれないという中国の淡い期待は、そのトランプ大統領によって裏切られることになった。

 中国は、自らの要求を通すためには、譲歩せず、実力行使も辞さないという米国の意志を理解しただろう。米国の実力行使を排除して経済発展を継続するために、軍事力強化を加速している。米国に対する抑止力と対外経済活動を保護するための軍事プレゼンスの双方が必要だと認識されるのだ。

 しかし、中国共産党は、2017年の中国共産党第19回全国代表大会において、自らの軍事力を「世界一流」にする目標を、今世紀半ば、つまり「二つの百年」の2つ目である2049年としている。それまでの間、中国は、自国の軍事力は米国のそれに及ばないと認識しているということだ。

 「二つの百年」の2つ目の2049年までの間、中国は外交カードも用いて米国と取引することになる。北朝鮮の非核化の問題はそのカードの1枚かもしれないが、北朝鮮は中国を信頼しているわけではない。北朝鮮の非核化を巡って、各国は自国に有利な状況を創り出そうとしているのだ。こうした複雑な状況の中、日本としては、まずは米国と意思疎通を図り、協力をより強化させることで、自らが主要な役割を果たせないという不利を克服していくことが重要となろう。
 

  
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