2022年8月14日(日)

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2018年6月28日

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加谷珪一 (かや・けいいち)

経済評論家

 東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立。著書に『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)等多数。

 

 生体情報をIT企業に握られてしまうことについては、当然のことながらデメリットもある。もっとも大きいのは医療情報との結びつきだろう。

 日本でも一部の医薬品はネットで購入することが可能であり、サプリやその他の商品情報と組み合わせることで、本人が抱える疾患についてある程度までなら、特定できる。ここに声の情報が加わると、その精度はかなり上がるはずだ。

 医療技術がこれだけ発達した現代でも、有能な臨床医は、患者と向き合った時の所見を重視している。ここで得られる情報の中には、声や表情といった抽象的な情報も含まれているのだが、逆に言えば、声や表情は極めて重要な医療情報ということにもなる。つまり、これまでは医師しか得ることができなかった医療情報をIT事業者が収集できるということを意味する。

匿名化情報でも個人を
特定することは可能

 困ったことに、利用者の生活習慣や疾患の有無などが分かってしまうと、究極的には余命なども推測できる可能性が出てくる。こうした情報が保険商品などに利用されてしまうと、やっかいな問題を引き起こすだろう。健康でリスクが低いと判断された人は、安価に保険に加入できる一方、リスクが高いと判断された人物は、保険に入れない、あるいは高額の保険料が提示されるといった事態になりかねない。

 こうしたデリケートな部分を含む個人情報については、IT事業者もずさんな管理はしないと考えられる。だが不正な情報流出さえ防げれば、個人が特定されるような形で情報が出回ることがないと考えるのは早計である。実は、個人名を伏せた形でも、複数の情報を組み合わせることで、かなりの部分まで個人を特定できるのだ。

 企業は、名前や住所といった個人が特定できる情報を伏せた形で、すでに多くの情報をやり取りしている。匿名データ単体では、精度の低いマーケティングにしか利用することができないが、こうした粗いデータであっても、複数のデータを横断的に分析することで、実はかなり詳細なレベルまで本人を特定することができる。

 人手をかけて行うとなれば気の遠くなるような分析作業だが、ビッグデータの解析はAIがもっとも得意とする分野である。匿名データであっても、AI時代においては、容易に本人特定に結びつくと考えた方がよいだろう。

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