ゲーム戦略3 レバレッジ(てこの力)
トランプ大統領は5月24日、北朝鮮ペースで進んでいたゲーム(試合)の流れを変える目的で、突然、米朝首脳会談「中止」の書簡を金委員長に送りつけました。交渉の主導権を握るために、相手の不意を突いて「ゲームチェンジ」を図ったのです。
その際、トランプ氏は「あなた(金氏)は機会を逸した」という一文で書簡を締めくくり、「機会損失」に訴えました。機会とは、北朝鮮が強く望んでいる体制保証と経済支援です。
トランプ大統領は自伝の中で、取引の構成要素に「レバレッジ(てこの力)」を挙げて、それを使用することの重要性に言及しています。トランプ氏は相手に対する「優位性」をレバレッジと呼んでいます。レバレッジとは「相手が望むものだ」とも述べています。
周知の通り、てこの原理では棒を使って重いものを小さな力で動かします。トランプ氏は、棒を相手に対する「優位性」及び「相手が望むもの」と捉えています。「重いもの」とは「複雑で困難な取引」を指します。「小さな力」とは「少ないエネルギー」のことですが、トランプ氏の場合「少ない費用」の意味です。支点は非核化と経済支援の費用を出す日本です(図表2)。
要するに、トランプ大統領のゲームのやり方は、「複雑で困難な取引を費用を抑えて、相手に対する優位性や相手が望むものを使って、自分が求めているものを手に入れる」となります。トランプ氏は、このやり方を北朝鮮に応用したのです。
ゲーム戦略4 すり替え
トランプ大統領にはゲームの形成が不利になると、話題や争点のすり替えを行なう傾向があります。ロシア疑惑を捜査しているロバート・モラー特別検察官から事情聴取を求められているトランプ氏は、米朝首脳会談及び米国にとって不公平な貿易を理由に挙げて聴取に応じていません。率直に言えば、米朝首脳会談を「隠れ蓑」として使い、話題をロシア疑惑から会談にすり替えたのです。
すり替えの例をもう一つ挙げてみましょう。トランプ政権は不法入国した親子を引き離して子供を収容センターに拘束する措置をとりました。同政権のこの強硬な反移民政策、いわゆる「不寛容政策」は世論の批判にさらされました。そこで、トランプ大統領は不法移民によって身内を殺害された家族をホワイトハウスに招いて、記者会見を開いたのです。その狙いは争点のすり替えです。
トランプ大統領は、被害者の肉親を舞台に挙げて「親子が数日間引き離されたのではなく、彼らは永久に引き離されたのだ」と強調しました。「永久」という言葉を繰り返し使ったのです。そのうえで、被害者の家族に身内が殺害された状況や心境を語らせたのです。
さらに、すり替えの例を紹介します。過去にトランプ大統領はバスの中で猥褻な発言をしていました。その発言を録音したテープが、16年米大統領選挙において公表されると、トランプ氏は即座に対策を打ちました。ヒラリー・クリントン候補(当時)の夫であるビル・クリントン元大統領にセクハラをされたと訴えている女性たちを集めて、記者会見を開いたのです。言うまでもなくトランプ氏の狙いは、有権者の関心を自身の猥褻発言からクリントン元大統領の女性問題にそらせて、自分に対する攻撃を弱めることでした。
ゲーム戦略5 不公平と互恵的
トランプ大統領は、大統領選挙期間中から貿易不均衡是正を訴えています。その際、相手国との貿易赤字額や関税率を取り挙げて、「米国にとって不公平で互恵的ではない」と断言します。
トランプ氏は6月26日、ホワイトハウスに米議会の共和党幹部を招待しました。そこで「中国は米国の製品に25%関税を課しているのに、米国は中国の製品に2.5%しか課していない」と不公平な取引について強い不満を述べました。米国の自動車関税は現在2.5%です。
トランプ大統領によれば、「互恵的」とは「相手国が米国の製品に50%の関税をかけたら、米国も相手国の製品に同率の関税をかける」ことです。日本に対しても「不公平」や「互恵的」を用いて日米の貿易不均衡是正を図ろうとしています。
加えて、トランプ大統領はロシア疑惑についても「不公平だ」と主張しています。モラー特別検察官のチームは、13人のメンバーが民主党支持者で偏向しており、「不公平」で「いかさま」だと議論するのです。実際、モラー氏は共和党員です。トランプ氏の意図は、不公平に訴えることによって、モラー氏の捜査内容の信頼性を低下させて、ゲームで優位に立つことです。
次にトランプ大統領は日本に対して、「私のトモダチ」及び「不公平と互恵的」以外に、どのようなゲーム戦略を用いているのかも見てみましょう。