2024年11月26日(火)

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2011年5月12日

 東京国立博物館の平成館は巨大なスペースだ。第一室と第二室に分かれている。第一室に入ると『プロローグ』として、「これが写楽だ!」と言わんばかりに東京国立博物館蔵写楽作品の各期代表作が出迎えてくれる。次の章は『写楽以前の役者絵』として、当時や写楽以前の歌舞伎の状況を教えてくれる作品で満ち溢れる。このコーナーを見ることで、江戸時代にタイムスリップ(!)することができるのだ。続いて『写楽を生み出した蔦屋重三郎』を紹介するコーナーになる。蔦屋は早い話、本屋でプロデューサーでもあり、写楽を見出し自社の出版物でデビューさせたのである。蔦屋無くして写楽は存在しないのだ。

東洲斎写楽 〈三代目大谷鬼次の江戸兵衛〉 アメリカ・メトロポリタン美術館蔵  ©The Metropolitan Museum of Art / Art Resource, NY

 出版ということになるとライバルが存在する。次は同じ芝居、同じ役者を描いた他の浮世絵師の作品と比べるコーナーとなる。すると写楽の独自性とともに、蔦屋の編集の手腕も浮き彫りになっていくのだ。第一室最後のコーナーでは同じ作品の違う摺りを比べながら、最高の摺り、最高の保存状態の作品と出会うことができる。つまり第一室を巡ることは、当時の歌舞伎の状況とそれが成立するまでの変遷、写楽が書物上で登場する意義、印刷物という版画の特徴という具合に、歴史、デザイン、版画といった多角的な面から、写楽作品の外壁を埋めていくのだ。写楽や版画、江戸時代の知識がなくとも充分に展示が教えてくれるから大丈夫。

 第二室は、写楽作品の四期を存分に堪能できる。ここには二つの要素が盛り込まれている。一つはところどころにモニターが置かれ、歌舞伎興行の内容を1分程でまとめた映像を見ることができる。もう一つは上演記録を検証した最新の研究が盛り込まれていることだ。例えば《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》。これまで《三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛》と標記されたが、「奴」をつけるのは誤りだった。「奴」をつけると武家の奴僕の意味、つまり家来となってしまうのだ。文献と作品を詳細に研究すると分かってくる内容が、この展示に反映されている。

 このように写楽展は様々な発見の舞台となっている。GWは終ってしまったが、時間をかけてこの展覧会を楽しんでリフレッシュしてみてはいかがだろうか。世界中に愛されている写楽をみて元気を出そう!


特別展 「写楽」
2011年5月1日(日)~2011年6月12日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで。ただし土・日・祝日は18:00まで開館)
休館日:2011年5月16日(月)、5月23日(月)
観覧料金:一般1500円(一般)、1200円(大学生)、900円(高校生)、中学生以下無料。
交通: JR上野駅公園口・鶯谷駅より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
お問合せ: 03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会ホームページ: http://sharaku2011.jp/
東京国立博物館ホームページ: http://www.tnm.jp/


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