今回のテーマは「トランプ大統領の関税ゲーム」です。米国が中国からの輸入品に対して高関税措置を講じると、中国は報復関税で対抗しました。米中による追加関税の応酬が続けば、両国の貿易戦争は泥沼化の様相を呈することは間違いありません。
「トランプ大統領ゲーム理論の解析」で説明しましたが、ドナルド・トランプ米大統領のゲーム戦略には主として、「脅しと圧力」「私のトモダチ」「レバレッジ(てこの力)」「すり替え」及び「不公平と互恵的」があります。これらのゲーム戦略は、報復措置をとる中国に通用するのでしょうか。本稿では、トランプ氏の関税ゲームを分析します。
関税ゲームの鍵を握る5つの質問
トランプ大統領は、前回の米大統領選挙選で「中国は公平で互恵的な貿易を行っていない」と強く非難しました。米メディアは、「中国は世界第2位の経済大国であるにもかかわらず、WTO(世界貿易機関)が中国を発展途上国のように扱い、輸入品に対して高い関税をかけることを許している点に、トランプ大統領は驚いている」と報じています。仮にそうであるならば、トランプ氏は中国とWTOにかなり不信感を抱いていることになります。
トランプ政権は6日、ハイテク製品を中心とした中国からの輸入品に25%の追加関税を発動すると、中国政府も即座に米国産の大豆、牛肉、バーボンウイスキー、自動車などに対して同規模の報復関税をかけました。中国が報復に出ると10日、中国産の食料品、衣類、家具及びハンドバックなどの生活用品を含めた2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税を適用する方針を、トランプ政権は発表しました。これに対して、中国政府は直ちに対抗措置をとることを表明しています。
以下で、トランプ大統領の関税ゲームの鍵を解く5つ質問(Q)とそれに対する回答(A)を考えてみます。
Q1 なぜトランプ大統領はこのタイミングで対中追加関税の発動に踏み切ったのか?
A1 トランプ大統領は中国の習近平国家主席の協力を得ながら、北朝鮮に対して最大限の圧力をかけて、史上初となる米朝首脳会談を実現しました。昨年、「北朝鮮に最も影響力があるのは中国だ」と繰り返し発言をしていました。会談前に追加関税を発動しなかったのは、中国を通商問題で過度に刺激するのは得策ではないと判断したからでしょう。
米朝首脳会談後、トランプ大統領の中国に対する態度が変わりました。トランプ氏には習主席の手を借りずに、北朝鮮の金正恩労働党委員長との直接交渉により、非核化を進展させようとする意思がみえます。トランプ氏は9日、自身のツイッターに「米中貿易摩擦を理由に、中国が米朝の交渉に悪い影響を与えないことを期待している」と投稿し、中国をけん制しました。
いずれにしても中国への追加関税措置の発動の時期は、米朝首脳会談後と中間選挙の間と計算していたとみてよいでしょう。
Q2 トランプ大統領による対中追加関税の本当の狙いは何か?
A2 ワシントン郊外で2月下旬、全米で最大の保守派の年次総会「保守政治行動会議(CPAC)」が開催されました。主催者の米国保守連合会長マット・シュワップ氏に会場でインタビューを行うと、「トランプ大統領が金委員長と会談を行っても、支持率に影響はないでしょう。有権者は反トランプと親トランプに分断されているからです。真ん中の有権者は、経済を重視しています」と述べていました。実際、米朝首脳会談後のトランプ氏の支持率の伸びは、2から5ポイント程度で大幅に向上していません。
トランプ大統領の中国製品に対する高関税措置は、中間選挙に向かって白人労働者を柱とする支持基盤固めに走ったと解釈することができますが、シュラップ氏が指摘した「真ん中」を狙って支持率の向上を狙ったと捉えることも可能です。
ロイター通信及びグローバル世論調査会社イプソスが行った共同世論調査(18年6月28-7月2日実施)によれば、トランプ氏の支持率は41%です。ところが、同氏の雇用政策に対する支持率は49%、経済政策は46%で全体の支持率を5ポイントから8ポイントも上回っています。一方、貿易政策に対する支持率は38%で、雇用及び経済と比較すると約10ポイント下回っています。
貿易政策の支持率向上は全体の支持率アップにつながります。ただトランプ氏の場合、貿易政策が保護主義的なので、貿易で得点を稼ごうとしても支持率の伸びは限定的とみるべきでしょう。