「棚田のコメ」で日本酒を造る
活用されていない「資源」を活かしてみたい。その思いで最初に着手したのが、清酒作りだ。「鴨川里山トラスト」の活動で、棚田の保全にも関わっていたことで、トラスト活動地域の棚田のコメを清酒にできないかと考えたのだ。清酒は「酒米」という種類のコメで造ることが一般的だが、調べてみると食用米でも造ることができると分かった。
高橋さんは「棚田」で育ったコメを使うことを付加価値として売り出せば上手くいくはずと考えた。早速、地元に唯一残る酒蔵を訪れると共に、農家には一般流通よりも高く買い取ることを申し出た。こうしてできたのが清酒「日本酒 純米無濾過原酒」だ。
「6次産業化」の必要性はよく言われるが、生産のプロ(農家)が、小売業者のように商品企画や販売まで担うというのは簡単ではない。そうした意味で、高橋さんのような企画・販売のプロが、コメ生産者、醸造所の間を取り持つことで無理なく6次化が成立したといえる。
高橋さんは「単に商品のことを考えるだけではなく、これからの農業がどうあるべきかまで考えながら仕事をするのがこれまでと違うところです」と話す。
意気投合できる市職員との出会い
サテライトオフィスを設置したことで、高橋さんは新しい「出会い」を得ることができた。たまたま、そのオフィスは鴨川市ふるさと回帰支援センターの隣にあり、その事務局で市役所農林水産課職員の田中仁之さんと知り合いになったのだ。
実は、「未利用、低利用」という点で、田中さんも高橋さんと同じ気付きを持っていた。棚田の脇で実った「夏みかん」が放置されているのを見たアイスメーカーの人がそれを譲ってもらって試作品を作り、鴨川の観光ホテルなどに「地元産のアイスとして出しませんか?」と、営業しているのを見たのだ。
「6次産業化ってこういうことなんだなと、実感として理解できました」と田中さん。
こうした共通の思いもあり、高橋さんと田中さんは意気投合した。「高橋さんは、移住して間もないのに、市内の色々な所を回られていて、住民目線で話をしてくれました」と田中さんは言う。