2024年11月22日(金)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年8月3日

外交手段として重視されるPD

 このジャパン・ハウスは、安倍政権下の「パブリック・ディプロマシー(PD)」強化策の一環である。PDとは、「広報文化外交」とも「戦略的対外発信」ともいわれ、自国の対外的な利益と目的の達成のために、メディアでの対外情報発信および海外の個人や組織との文化や教育に関する交流などの活動を通じ、海外における自国のプレゼンスおよびイメージの向上、さらには自国に対する理解の深化を目指した活動である。

 近年、世界的にも政府の政策決定に果たす世論の役割が増大するなか、このPDが外交手段としても重要視されている。国際社会、とりわけ米国では、中国や韓国が、領土問題や歴史認識を題材に活発な広報活動や反日ロビー活動といったPDを展開しており、かなりの成果を収めていたという状況があった。2012年12月、第二次安倍政権が発足するや、同政権はこのような状況を深刻な危機と捉え、日本の「正しい姿」に対する海外からの「正しい理解」を得るべく、対外発信を重要な政権課題とし、活発なPDを展開し始めた。2015年度には戦略的対外発信における予算を従来の予算より500億円も増額し、日本の対外発信の大幅改革に乗り出したのだった。

 PDの目的は、オールジャパンで日本の「正しい姿」や魅力の発信、親日派・知日派の育成、在外公館長・在外公館による発信の更なる強化といった活動や施策を推進することとされている。特に「正しい姿」の発信とは、領土保全や歴史認識、積極的平和主義などの重要課題についての日本の歩みや主張を国際社会に発信することを示し、これを主目的と位置づけ、対外発信の拠点として上記3都市にジャパン・ハウスを設立したのだった。

 日本のPDを担う中核組織としては、外務省の広報文化外交戦略課(Public Diplomacy Strategy Division)があり、同組織によれば、次のような新たな取り組みを展開してきている。

 まずは、広報の主戦場である米国や欧州における第三者発信である。第三者発信は、主に海外からの招聘者によって行われる。日本政府が主体となって自国に有利なように発信すると、相手国から「プロパガンダ」と受け取られるリスクが大きくなる。これでは本末転倒となってしまうため、PDは慎重に行わなくてはならない。相手国の有識者などに、日本の意思に沿った形で、かつ客観的に発信してもらうなどの工夫が必要なのだ。

 例えば、戦後70年という節目の年となった2015年は、新たなPD戦略のもとで行われた第三者発信の力の見せ所であった。この年は、中国や韓国から反日的な発信が展開される要素が多く存在し、日本が国際社会において不利な立場におかれやすい状況であった。そうしたなか、日本は、海外のメディアや有識者から「歴史」という文脈で日本についてポジティブな発信をしてもらう手法を採用した。

 一般的に有識者は自らの信念に反する発信はしないことから、米国シンクタンクの有識者たちが国際秩序に対する日本の貢献や平和的な歩みに期待を示す発信をし始めたことは、この取り組みが有識者のレベルで一定の効果があったことを示している。


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