世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年8月3日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員・未来工学研究所客員研究員・京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教

1993年生まれ。2012年米国ウエストバージニア大学において、国際政治学や通訳翻訳等を学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。笹川平和財団安全保障事業グループ研究員、外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官を経て、現職。専門は、国際公共政策、パブリック・ディプロマシー、ストラテジック・コミュニケーション、メディア研究、世論等。

PD新戦略にはTwitterやFaceboookも

 また、TwitterやFacebookといったSNSやYouTubeといったソーシャルメディアによる利便性や映像を駆使した働きかけも重視されている。社会の幅広い層に対日理解を深めてもらい世論を形成するため、これまでにSNSによる安倍首相の活動に関する英語での発信や、「防災」や「法の支配」、「積極的平和主義」、「歴史」をテーマとした動画の発信などを行っている。動画の一部は、約200の海外メディアとYouTubeに広告掲載され、項目によっては、20日間で9,000万人と、閲覧者数も多かったため、この手法も効果があったと考えられる。

 しかし、ソーシャルメディアを通じた発信の落とし穴は、閲覧した社会層や年齢層などの構成を把握するのが難しく、どの程度まで視聴者の興味や関心を引いたかもわかりにくい点である。投稿が視聴者自身のSNSアカウントにおいてシェアやリツイートされ、それにコメントされていれば、視聴者がある程度の強い興味を示したと考えられるものの、開設当時の調査では、シェア数やリツイート数まで意識が及んでいないようにも見受けられる。

 文化・教育分野の交流事業に関していえば、日本は、全世界で年間2,000件以上にもおよぶ文化交流イベントを開催しており、知日派・親日派育成事業では、交流拡充拠出金のもと、海外の対日理解を促進させるための交流プログラムが新設された。将来活躍が期待される海外の優秀な人材の発掘と日本への招聘を通じ、日本の政治、社会、歴史および外交政策に関する理解促進を図るとともに、中長期的な日本の外交環境改善を図ることが目的だという。

 さらに、海外における日本研究が中国研究と比較しても劣勢に立たされるなか、米国の大学を中心に、現代日本政治や外交に関する研究の支援を、寄付講座を開設するなどしながら日本研究を支援している。

プロパガンダとして受け止められる危険性

 “Sinzo Abe”の名は、歴代の総理大臣と比較しても、国際社会における認知度が高く、安倍首相のプレゼンスは確実に向上しており、PDも順調に進んでいるように見える。

 しかし、PDが本格的な成果をあげるには、かなり長期的な取り組みが必要となる。なぜなら、一般的に、上述のようなソーシャルメディアを通じた発信や教育・文化を通じた人的交流の推進といった手法では、半年や1年といった短期間で国際世論の「精神を勝ち取る」ことが難しいと考えられているからだ。

 仮にPDが成功する途上にあったとしても、内政、経済、他国との外交関係といった数多くの外的要因がPDの効果に影響を与えることが予想される。良い影響であれ、悪い影響であれ、である。さらにこれらの要素は相乗効果を産み、PDの効果が予想を超えて乱高下する可能性もある。いずれにせよ、PDには、長期的な視点と不断の努力が必要であるだけでなく、タイミングなどの偶然が結果を左右することもあるのだ。

 さらに、メッセージの発信の仕方も工夫しなければならない。この工夫には、歴史や国際秩序について、中国や韓国に単純に対抗する形で発信することの効果について考えることも含まれる。

 日本通の有識者はともかく、対象とする国の社会が日本の歩みや歴史について、どれほど興味や関心があるのか正確に把握していなければ、単純な対抗的発信は、むしろ日本のプロパガンダとして受け止められ、日本の悪いイメージだけが一人歩きしてしまう可能性があるからだ。実際、日本は過去に苦い経験をしている。2013年および2014年、米国の一部有識者および有力紙が、日本に「歴史修正主義者」というレッテルを貼ったのだ。

 また、日本の魅力や価値観などに関する普及活動は、それが相手にとって魅力的でなければ、広がりを期待することは難しい。受け手の興味や関心、ニーズを把握しない形で行われる、いわゆる一方通行の発信になってしまえば、せっかくのPDも実を結ばない。ソーシャルメディアやSNSを駆使して、世論の反応や動向を把握した上で、各層やグループのニーズに応じて発信する、双方向での効率的な発信が求められる。

 それと同時に、世論調査やメディアにおける取り上げられ方、さらにシンクタンクの研究などにおける日本のプレゼンスを分析し、定期的に効果測定を行っていくことも必要である。その上で、一般世論と有識者のニーズをそれぞれ理解し、過不足点をその都度事業計画に反映させていくのが望ましい。大変な努力が必要なのだ。

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