ところが、トランプ政権下では、重要な内外政策を打ち出す際に、議会との事前の打ち合わせや意見調整は皆無に近い。
TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱、メキシコ国境への「壁」建設を含む排外主義政策の発表、気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」からの脱退、イラン核合意破棄、あまりにも唐突だった米朝首脳会談開催、そして物議を呼んだヘルシンキ米露首脳会談などはそのいい例だ。これらの重要政策や方針決定にあたっては、議会はほとんどカヤの外に置かれてきた。
トランプ氏は先の大統領選で共和党議会主流派とは距離を置いた「アウトサイダー」的なスタンスで立候補し、そして当選した経緯から、議会に対しては何の負い目も感じていない。逆に、11月の中間選挙で再選をめざす上下両院の共和党議員たちは、全米の共和党支持層の間で依然として人気の高いトランプ大統領に支援を仰がざるを得ないという切羽詰まった状況に直面している。
失われる最高裁の独立性
「三権」のもうひとつの担い手である最高裁も、かつてほどの威厳と独立性を無くしつつある。党派性を色濃くしているのだ。
トランプ政権発足前までの最高裁は、どちらかといえば民主党の立場に近い判事4人と共和党色の強い判事4人、それに共和党系ながら審理のテーマによってはリベラルな立場も辞さない判事1人の9人で構成され、思想的にもある程度バランスのとれたものだった。しかし、2016年、アントニン・スカリア判事の突然の死去に伴う後任判事選びが始まって以来、状況が変わって来た。トランプ大統領が就任早々、新たに保守系のニール・ゴーサッチ氏に白羽の矢を当て上院の承認を得て昨年4月、正式に9人目の判事に正式就任させたことで、最高裁としての中立性に疑問符が付き始めた。
さらに今年7月には、リベラル的な立場を一貫して取って来たアンソニー・ケネディ判事が引退を表明すると、トランプ大統領はただちに後任候補としてゴーサッチ判事以上に保守思想に染まったブレット・カバノー氏を指名、上院の承認を待つだけとなった。上院は下院同様、共和党が多数を占めているため、今秋には正式就任予定となっている。
こうしたことから、米国主要メディアは、今後最高裁は、大統領が新たに打ち出してくると予想される移民政策、人種問題、環境保護の規制撤廃、医療保険改革などをめぐり、“トランプ色”をより鮮明にしかねないとみて一斉に警鐘を鳴らし始めている。
さらに懸念が高まりつつあるのが、トランプ・ホワイトハウスによるメディア攻撃だ。
とくにトランプ大統領は、今年に入りロバート・モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査が本格化して以来、マスコミ報道を「フェイク・ニュース」として一網打尽に非難、最近では、7月16日のヘルシンキにおける米露首脳会談で大統領が醜態を演じたことが大々的に報じられたことに反発し「マスメディアは人民の敵」とまで言い切った。
この「人民の敵」発言はその後も波紋を呼び起こしており、トランプ大統領が地方遊説に出かけた際に、取材に当たっているCNNテレビなどの主要メディアの担当記者に対し超保守派のトランプ支持者の間から同じ言葉で罵声を浴びせられ、嫌がらせを受けるなどの騒ぎとなっている。
アメリカでは建国後、1791年に人民の基本的人権をうたった「権利の章典」が批准され、その一番目に「言論、表現、信仰、集会の自由」が憲法修正第1条として明記された。このうちとくに「言論の自由」は暴政に対する監視役として重要視され、今日に至っている。
従ってとくに「三権分立」が本来の機能を喪失しつつある今日、本来ならメディアは「人民の敵」どころか、市民の立場に立って政府の暴走にブレーキをかけるための“最後の砦”ともいうべき存在であり、これまで以上に保護されなければならないはずだ。
しかし、現実にトランプ政権下で議会、司法がホワイトハウスの軍門に下り、そのあげくにメディアまでが攻撃にさらされるとすれば、誠に憂慮すべき事態だ。
その意味でも、11月中間選挙で、野党民主党がいかに有権者の支持を集め、本来の議会の役割を取り戻すだけの議席数を増やせるか、今アメリカ民主主義の真価がまさに問われる重大な局面を迎えている。
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