2022年8月15日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2018年8月31日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

『サイバー・エフェクト 子どもがネットに壊される』(メアリー・エイケン 著、小林啓倫 翻訳、ダイヤモンド社)

 タイトルにある「サイバー効果」とは、インターネットというサイバー空間が、人間の思考に影響を与えて行動を変化させる現象を指す。

 その内容は幅広く、フェティシズムやネット依存、ゲーム依存、ネット恋愛、サイバー心気症(ネット上に過度の健康情報があることで不安を高めてしまう現象)……など、さまざまな事例が原著には挙げられているという。

 本書ではとくに、生まれてすぐネット環境にさらされる「デジタルネイティブ」の赤ちゃんたち、サイバー空間を理解する力を持たない12歳までの子ども、自己概念の形成過程にあるティーンエージャーらに焦点を当て、子どもの発達と心理にサイバー空間が与える影響を豊富な事例や研究成果とともに紹介する。

米国小児学会による勧告

 冒頭、アイルランドを走る列車で著者が見かけた母子の姿が印象的だ。

 <赤ちゃんにミルクを与えている間、母親は携帯電話のほうしか見ようとしなかった。そして赤ちゃんはといえば、ほかの子たちがするように上のほうを見て、愛情のこもったまなざしを母親のあごのあたりに向けていた。しかし、母親が愛情のこもったまなざしを向けていたのは、携帯電話だった。ミルクをあげる時間は30分ほど続いたが、その間彼女は、子どもと目を合わせることも、携帯電話の画面から注意をそらすこともなかった。>

 この遭遇から、著者はアイコンタクトをともなう「フェイスタイム」が減ったり、「早期教育」の名のもとでタブレット画面を見せられたりすることが、赤ちゃんの成長にどんな影響をおよぼすかを調べ、論じている。

 ワイヤレス機器の電磁波による被爆、タブレット画面を見ることによる視覚の発達への影響、現実世界を動き回り探索する時間が減ることによる感覚運動機能や共感、社会的能力、問題解決能力への影響。これらへの懸念を、著者は指摘する。

 例えば、米国小児学会は、次のような事実を明らかにした。

 ・2歳ごろまでの子は、画面上に映っているものを本当には理解していない。したがって、それを通じて知識や理解力、知覚能力を高めることはできない。

 ・画面がオンになっていると、赤ちゃんは自分で遊ぶことが減り、本当の学習を生み出す「現実世界の探索」行為が減る。

 ・画面がオンになっていると、言葉を学ぶ上で欠かせない「親が子どもに話しかける」行為が減る。これは、アイコンタクトや表情を読み取る時間が減ることも意味する。

 こうしたことから2011年には、2歳未満の子どもにテレビを含む画面を見せないよう勧告したという。

 一方で、長期にわたる厳密な比較対照研究は倫理上難しいため、全体的な影響が明らかになるまでに「いまの子どもたちの世代の発達段階は終わってしまっている」かもしれないと、著者は嘆息する。

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